君の体温が恋しくて


 
それは突然だった。


「あああああああああ!」


海兵をまた一人斬り捨てた時、上空から声がした。それも一つじゃなく、いくつもの声。

思わず顔をあげると、一隻の軍艦が逆さまに落ちてくる。


「何だ、ありゃ‥」


軍艦はモビーディック号の目前の海に高らかに水飛沫を上げて落ちた。

数秒後には海から何人もの囚人服を着た奴等が、船をよじ登り陸に上がってくる。

そしてその中、見覚えのある人物が数人‥


「エース〜!!‥!やっと会えたァ!!!」


麦わらのルフィ。エースの弟で、先日シャボンディ諸島で顔を合わせたばかりだ。

あたしは堪らず口角を吊り上げた。

こんなに早く、もう一度会えるなんて‥。


「助けにきたぞ〜!!」


麦わらの声を聞きながら手をかざし、脚力をあげ地を蹴った。数メートル飛び上がったところで現れたシャーナの足に掴まった。

砲弾を上手く避けながら、麦わらと共に居る面子を見やる。

ジンベエ、久しぶりだなァ‥。

クロコダイルも、そういや一回会ったことあったっけ?

後もちらほら、手配書で見たことがある顔ばっかだ。


「あ」


親父の傍まで来たとき、クロコダイルが、親父の首を狙った。

親父が殺られる訳ねェけどな。

とりあえず阻止しようと、シャーナから手を離し着地しようとした瞬間、


「え、?」


麦わらが、クロコダイルの腕を蹴った。

確かクロコダイルは自然系。触れないはずだけど‥。

覇気?あ、違う。足濡らしたんだ。


「へェ‥」


やるじゃん、麦わら。

さすがエースの弟だね。


「小僧、その麦わら帽子‥“赤髪”が昔被ってたやつによく似てるな」

「おっさんシャンクス知ってんのか!これ預かってんだ、シャンクスから」


あたしが着地して、親父の傍に寄るとそんな会話が聞こえた。

シャンクス。あたしに生きる力をくれた人。

そしてコイツが、そんな彼が認めた男。

あたしは今すぐ麦わらの前に出て行きたい衝動を堪えて、少し離れた場所で二人の会話に耳を傾けた。


「兄貴を助けに来たのか」

「そうだ!」

「相手が誰だかわかってんだろうな?おめェごときじゃ命はねェぞ!」

「うるせェ!お前がそんな事決めんな!俺は知ってんだぞ!お前海賊王になりてェんだろ!!“海賊王”になるのは俺だ!!」


酷く場違いなことを口走る麦わらに、思わず肩を揺らして笑ってしまう。


「“海賊王になるのは俺”、か」


やっぱり面白ェな、麦わらは。

シャンクスが認めるだけあるし、何よりエースの弟っていうのに納得がいく。

そっくりだ。自由奔放なとことか、意思が強くて真っ直ぐなとことか。


「足引っ張りやがったら承知しねェぞハナッタレ!!」

「俺は俺のやりてェ様にやる!エースは俺が助ける!!」


そっくりすぎて、エースを見てるみたいで、胸が苦しくなった。

気づくとあたしは、麦わらの前に飛び出していた。


「麦わらっ!」

「んあ?」


あたしは親父の前をすり抜け、麦わらにとびきりの笑顔を向けた。

麦わらは訝しげに首を傾げた後、あ、と小さく声を漏らして、


「お前黄金(きん)の奴!」

「お、ちゃんと覚えてたんだ」

「あァ!あん時ゃありがとな!」

「別に、あたし何もしてねェし」

「そうかァ?ま、とにかくありがとな!」

「ふふ、やっぱり兄貴そっくりだな」

「ん?お前エース知ってんのか?そうだ!名前教えろよ」

「そういやンな事言ったかな?あたしはナマエ、エドワード・ナマエ」

「俺はルフィ!よろしくな!」

「あァ‥ま、世間話はエース助けてからゆっくりしようぜ」


な、と笑ってサーベルを撫でた。

それから、おう!と笑った麦わらにエースが重なって、また胸がギュッと苦しくなった。


エース。

早く、君を抱き締めたい。








君の体温が恋しくて
(彼に君の面影を感じた)











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