少女は依然笑顔を浮かべたまま、センゴクの言葉を待っていた。
それはその場に居る者たちのほとんども同じだった。
センゴクは深く息を吸い、ゆっくり着実に言葉を紡ぎ始めた。
「20年程前か、グランドラインにナタリーという賞金稼ぎが居た」
ナタリーという名に聞き覚えのある者が、懐かしむようにその姿を思い出していた。
知らぬ者は知らぬ者同士、顔を見合わせ首を捻っていた。
センゴクは更に言葉を続けた。
「腕は確かな上、大した美貌の持ち主で、すぐ名は知れ渡り有名になった。だがある時、奴は子を孕み賞金稼ぎを辞めたという噂を我々は耳にした。元々多情な女だったんでな、子の父親に目星をつけるのは難しかった」
「‥」
「海賊が父親である可能性もあった。賞金稼ぎとはいえ、ナタリーは海賊とも関係を持っていたようだからな。だが我々が捜査に踏み出す前に‥奴の消息が一切絶えてしまった」
海兵のざわめきは止んでいて、皆センゴクの続きの言葉を待っていた。
少女は笑顔を仕舞い、ただ真っ直ぐセンゴクに目を向けていた。
「そして一年前、突如“新世界”にナタリーそっくりの少女、お前が現れた。我々はすぐ理解した、“ナタリーの子だ”と。少女はナタリーを上回る力を身につけていた上に、我々の敵であった」
まだ記憶に新しい1年程前、少女に7000万という最初の賞金をつけられることとなった事件、それは海軍の監視軍艦4隻を沈めたというものだった。
それは必然と海軍を敵に回す行為だ。
何を思ったのか彼女は賞金をかけられるとわかっていてそれを行なったのだ。
「我々は貴様を危惧し、直ぐ様調べに調べた。そしてつい先日やっと見つけたのだ。貴様の生まれ故郷、グランドラインにある“セリア島”という小さな島で、ナタリーの日記を」
「母さんの日記を?」
そんな物があったのだろうか、と少女は考えた。
しかしセンゴクは少女のそんな疑問には答えず、核心に向け言葉を放った。
「貴様の名はエドワード・ナマエ!“白ひげ”エドワード・ニューゲートとナタリーの間に出来た実の娘だ!」
広場はまたざわめきを取り戻した。
あれほど謎に包まれていた“黄金(きん)の魔女”の父親が、今目の前にいる“白ひげ”その人だったのだから当たり前のことだろう。
「故に貴様を今日ここで始末する!エースと貴様は必ずや強大な敵となるからだ!」
「エースは死なせない。あたしも」
続きをナマエは言えなかった。言う前に爆風が彼女を包んでいた。
“海賊王”の息子と“白ひげ”の娘を目の前にして、気が動転した海兵が屋根に向かって発砲した砲弾だった。
「馬鹿者!まだ命令しとらんぞ!」
「す、すみませんっ」
ガラガラと屋根の煉瓦が瓦礫と化していく。
バサッ、羽音がした。
立ち上る煙の中、大きな黒い鳥が羽ばたいた。
「何っ‥!?」
「なんだあれは!?」
黒い鳥はそのまま処刑台の横を掠めた。
その上で金髪がヒラヒラと流れていた。
「死なないっての」
鳥が羽ばたく度、漆黒の羽が舞った。
黒い鳥を従える金髪の少女。それは二つ名の通り、まさに魔女。
美しい金髪は、キラキラ、光の粉をばら蒔くかのように流れる。
海兵も海賊も、ここが戦場であることも忘れてその幻想的で美しい姿に魅了されていた。
ナマエはうっすら笑顔を浮かべて、そのまま白ひげの傍まで近づき、舞い降りた。
「久しぶり、オヤジ」
「グララララ‥何しに来やがった、ナマエ」
「親孝行さ」
「バカ野郎、てめェみてェなハナタレ娘に親孝行なんざ百万年早ェ」
「バカはオヤジだ。親孝行は子供がやりてェときにやんだよ。だから文句は言わせねェ」
これが久しぶりに再会した親子の会話だろうか。
父親が父親なのだ。娘が強情に育っても何ら不思議はない。
そんな二人の会話ならこれが普通なのかもしれない。
「グララ‥言うようになったじゃねェか」
「母さんに似てきた?」
「あァ‥良い女になりやがって」
「ふふ‥それはね、オヤジ」
本当に愛する人を見つけたからだよ。
少女は一年前とは比べ物にならないほど、綺麗な笑顔を浮かべた。
明かされた彼女の生
(それが皮肉な彼女の運命)