今宵は宴日和


 
一晩、何をした訳ではない。

トラファルガーが本を読む横で、あたしも適当に手に取った本を読んでいた。海賊史だった。

歴史に名を残した名だたる海賊たち。その中でもやはり“海賊王”ゴールド・ロジャー、“白ひげ”エドワード・ニューゲート、この2人無くして歴史は語れないだろう。

トラファルガーも、“海賊王”を目指しているんだろうな。


「おやすみ」

「ん」


曙、あたしたちは眠りについた。

一つの布団で、互いの熱を与え合って‥。





 * * *





「「「宴だーッ!!!」」」

「いやいや、なんで」


昼過ぎに起きて、シャワーを浴びると言うトラファルガーを残し、食堂で昼御飯を食べているときだった。

ベポとキャスケット帽子君とPENGUIN帽子君があたしを見ての第一声。


「だって魔女さん帰って来たし」

「美女に酌してもらうとか堪んねェ!」

「だからキャプテンの女だって」

「夢くらい見させろよ!」

「酌くらいしてやるよ」

「「へ?」」

「酌して欲しいんだろ?別にそれくらい構わねェ」


パクパク、料理を口に運びながら言うと、キャスケット帽子君とPENGUIN帽子君があんぐり口を開けてあたしを見てくる(そんなにおかしいこと言った?あたし)。


「いいんすか?」

「いいって」

「お、俺もいいっすか!?」

「いいよー」

「「ぅおっしゃーっ!!」」

「良かったね、二人共」

「ふふ」


ここのクルーは面白ェな。それに良い奴らばっかだし。

あたしに背負うモンが何もなけりゃ、この船に乗っただろうな‥。


「てか勝手に宴とかしていい訳?」

「いいんじゃねェの?」

「キャプテン宴好きだしな」

「あ、そうなんだ」

「おう!じゃあ酒出して来ようぜ!」

「そうだな!」

「いや、まだ昼‥」


あたしの声も虚しく、二人は食堂を飛び出して行った。

取り残されたあたしの前に、ベポが少し笑いながら座った。


「楽しいでしょ、みんな」

「あァ、船長からは想像できねェほど愉快な奴らだな」

「おれ、入ったの最後‥あ、ジャンバールが最後だ。‥とにかく、みんなすぐに打ち解けてくれたんだ」

「へェ」

「魔女さんもすぐ打ち解けれるよ」

「‥ベポ、あたしはこの船には乗れない」

「‥」


沈黙が二人を包む。

居たたまれない感情が胸を埋めて、思わず食べる手を止めてしまう。


「‥」


おかしいよ。今までのあたしは、誰からの船への勧誘にも揺らいだことはなかった。ましてや、こんな胸が苦しいなんてことなかった。

あたしはこの船に、深入りしすぎたんだ。


「ベポ‥」


こんな思いするくらいなら、こんな船に拾われなければよかった。出会わなければ、よかった。

でも、


「会えて、よかった」


あたしの本心は、こっちなんだ。

会えてよかったんだ。ベポに、トラファルガーに。


「あたし今、楽しいもん」


今のあたしの精一杯の笑顔で笑うと、ベポもふにゃりと笑ってくれた。


「あ、ベポがあたしと来ればいいじゃん!」

「そ、それは無理だよ!おれキャプテン好きだもん!」

「はは、冗談だよ」

「おーい!」

「酒持って来たぞー!」

「おれも運ぶの手伝うよ」


二人の声がして、ベポは二人の元へ走って行った。

あたしは残りの食事を平らげ、食後のお茶(今日は烏龍茶)を飲んでいた。


「宴、ね」


今を一言で言うなら、“平穏”だ。

こんな日常、久しぶりで忘れてたな。

あの頃は毎日みんなと笑って、毎日バカみたいにお酒飲んで、毎日、毎日、幸せだった。

その幸せを自ら棒に振ったのはあたしなのに。今更恋しくなるだなんて。

もう一度、あの頃に戻れるんだろうか。


「魔女さーん!」

「早く来いよ!」

「みんなー!宴だー!」


今は、忘れよう。

この平穏を、幸せを大事にしたい。


「だからまだ昼だっつってんだろー」

「いいからいいから!」


笑いながら甲板へ行くと、クルーたちはもう酒を飲んでいた。

トラファルガーも甲板へ出てきて、みんなでジョッキをぶつけ合った。











今宵は宴日和
(浴びるほど飲み明かそう)













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