目覚めたら、寝るときにあったはずの温もりが消えていた。
飛び起きた。時計はまだ7時を指している。
「おい!お前等!」
船員を叩き起こして、船中を探させた。
だが居るはずもない。
彼女は、空を飛べるのだ。
「キャプテン‥」
「これが、アイツの答えだ‥」
いつでも彼女は船を降りることができた。しかし俺は、勝手に彼女を信じていたんだ。
自らのツメの甘さに嫌気がさした。
「俺は少し、部屋に居る‥考えてェことがある」
各自自分の仕事をしていろ、と言い残し甲板を後にした。
部屋に入り、一息ついてソファに座った。
「‥そういえば」
彼女が昨日、読んでいた新聞が目についた。彼女が見ていた紙面、“火拳のエースの公開処刑”。
あの後あまりに普通だったので忘れていたが、新聞を読んですぐの彼女は少しおかしかった。
誰もが驚き動揺する記事ではある。だが、彼女はそれとは違うように感じた。
「まさか、」
彼女が賞金首である以上、政府側でないことは明らかだ。
つまりそれは海賊側であることを意味する。
彼女は、白ひげと関わりがあるのか?
そう考えるならば、彼女が今日居なくなった合点がいく。白ひげの船に行ったのか、はたまたその傘下の船に行ったのか。
だとすれば彼女は、もうここへは帰って来ないだろう。
「諦めるなんざ、できるかよ」
すべて俺の憶測でしかないがな。どうせならこの憶測すべてが、間違っていて欲しいと願った。
‐ ‐ ‐ ‐ ‐
「嬢ちゃん、どこ行くんだい?」
「お買い物でもしようかと思ってね」
「案内してやろうか?ここらは危ねェからな」
厭らしい笑みを浮かべた男が1人、行く手を阻む。
周りに目をやると茂みや木の影にも数人、仲間らしき奴らが隠れている。
ただのナンパじゃなさそうだ。
「あたしはそこらの可愛い女じゃねェんでね。他あたりな」
「十分上玉だぜ?」
少しだけ男の体が近づいた。
「そりゃ光栄だね」
「ふっ‥嬢ちゃん知ってるかい?もうすぐ白ひげが死ぬんだってよ」
あたしは表情一つ変えず、男に目を向ける。
男は口元に笑みを残したまま、顎髭を撫でた。
「この世で最強の男が死ぬんだ!そりゃ世界が揺らぐぜ!!」
喜びにな、と男は下品に笑った。
この男は“白ひげ”に恨みでもあるんだろうな。
「白ひげもただの老いぼれジジイだ。アイツが死んだ暁にゃ俺がその座をもらう!!」
あァ、コイツは海賊だ。
白ひげに負け新世界から逃げ出し、ここらで身を潜めていたんだろう。チャンスを狙って。
「それでよォ、俺の女にならねェか?これから世界を取る、俺の女に!」
両手を広げ、男は厭らしく笑った。
「強い男が好きなんだろう?黄金(きん)の魔女!」
「知ってたのか?」
「俺ァ手配書のてめェの金髪に惚れたんだ。コイツを、俺のモンにしたいと」
「へェ、そりゃどうも。母さん譲りの金髪なんでね、誉められると嬉しいもんさ」
唇に手を当て笑ってやった。
男はそれを了解の合図ととったのか、一気に距離を詰めてくる。
「強い男は好きさ」
手が肩に触れる寸前、あたしが先にその体に触れた。
「白ひげは死なない」
「なっ‥能力、者‥っ!?」
「あんたにあたしはもったいない」
ゆっくりその体は傾いた。
周りにいた部下であろう仲間たちが飛び出してくる。
「てめェらの船長に言っときな」
ドミノ倒しのように、回し蹴りで全員まとめて吹き飛ばす。
「口を慎め、醜男がって」
まだ時代は終わらない
(弱い男ほどよくほざく)