「キャプテン、コーヒー‥ってすいません」
見つめ合ったままの状態でいると、ベポが扉を開けた。中の状況を見た瞬間ベポは深々と頭を下げた。
「なんでベポが謝ってんだよ」
笑いながらトラファルガーの腕を抜け、ベポの側に駆け寄った。
正直、助かったって思ってる。
あのままだったら多分あたしは何も言えなかったし、トラファルガーの腕から、目から逃げることができなかった。
キスの仕方も、唇の熱も、同じとこなんて1つもないのに。
どうしてあたしは、トラファルガーにアイツを見てしまうんだろう。
「ベポ、あたし腹減った」
「食堂に案内するね。はいキャプテン、コーヒー」
「あァ」
あたしはベポの手を急かすように引いた。扉が閉まる音がするまで、あたしは振り向けなかった。
* * *
「女が居るぞ!」
「船長の女らしいぜ!」
「すっげェ良い女!」
「船長ばっかずりィよな!」
食堂でベポと食事中。今日のメニューはフレンチトーストに海鮮サラダ、ドリンクは選択式であたしはミルクティーを頼んだ。
渡されたトレイを持って振り返ると、部屋の中から窓やら扉、天井の穴まで、覗き込んでいるハートの海賊団のクルーたち。
「すんげェ人」
「みんな魔女さんを見に来たんだよ」
「ふーん」
興味なんてなかった。いつもなら強い男を物色すんだけど、どうも今日は乗り気にならない。
それもこれもトラファルガーのせいだ。
「なんかムカつく」
「え!?ごめんね!すぐに追い出すよ」
「あー違う違う」
立ち上がりかけたベポの腕を引き座らせる。
あたしはミルクティーを一口飲んで口の中のフレンチトーストを流し込んだ。
「あんたたちのキャプテンってどんな奴?」
「キャプテン?うーん‥キャプテンはすごく強い」
「そういうことじゃねェんだけど‥ま、いいや」
ふさふさとベポの体を撫でた。ホント気持ち良い毛皮。
パク、と茹でた海老を口に放り込んだ。
「魔女さんも乗りなよ、この船に」
「んー‥それはできねェかな」
「なんで?」
「さァ」
モシャモシャとレタスを食んだ。ベポもレタスを食んでいる(肉食動物が青菜食べるって‥)
この船には乗れない。あたしはトラファルガーの側には居れない。
「あ、キャプテン」
どきん、小さく胸が鳴った。
あたしはそちらに目を向けないようにして食事を進めた。
「キャプテンここ座る?」
「あァ」
ガタッとトラファルガーはあたしの目の前に座った。いやいやいや、ベポが指したのはベポの隣じゃん!なんでそこ座んの!?
訝しげに顔をあげるとばっちり目が合った。
何か言おう口を開いたトラファルガーから目を反らし、残りのフレンチトーストを全て口の中に放り込んだ。
ミルクティーでそれを流して手を合わせた。
「ごちそうさまっ!」
トレイを持って立ち上がる。
「わわ!待ってよ魔女さん」
ドシドシとベポもあたしの後を着いてくる。
トレイを返して、あたしはベポの手を引いて食堂を出た。
背中に、トラファルガーの視線を受けながら。
少し甘いミルクティー
(眼差しは痛く、熱い)