懐かしい君にさようなら


 
地に足をつくより早く、その体に回し蹴りを食らわす。

突然のことに防ぎきらなかった黄猿は数メートル吹っ飛び、建物の瓦礫の下に埋まる。

しかし相手は大将だ。こんくらいでやられてくれる訳がねェ。

ムクッとすぐに起き上がり、ポキポキと首を鳴らす。


「おォ〜いきなり何だァい?」


チッと一つ舌打ちをしてあたしは体制を整える。


「あの大将を、蹴った‥」

「長っ鼻ァ!そいつ連れて早く逃げろっ!!」

「で、でもお前は」

「良いから行け!」


長鼻くんはロロノアを連れて走り出す。

さすが大将というか、あたしの蹴りを食らってすぐ立ち上がるような男だ。

食い止められるにも限界がある。


「誰かと思えば‥“黄金(きん)の魔女”だねェ〜。センゴクさんが言ってたよォ〜」

「やっぱり元帥さんにゃバレてんのか」

「あァ、今ここで仕留めるに越したことはないねェ〜」


ヒュッと消えたかと思ったらすぐ目の前に現れた黄猿。

間一髪でかわすが、僅かに髪を掠めた。


「おい!黄金の奴!」


麦わらの声がした。


「お前も早く逃げろ!」

「わかってるよ!」


ピカッ、とすぐ側で光った。

その瞬間下腹部に凄まじい痛みが走った。


「っ‥!!」


蹴られたんだ、黄猿に。

ブッ飛ばされたあたしは逃げていた長鼻くんと担がれていたロロノアにぶつかってしまう。


「お、お前っ!」

「悪ィ‥ロロノアは無事か?」

「あァ!多分大丈夫だ!」


あたしは片膝をついて起き上がる。

ロロノアは少し離れたところで倒れている。


「っ‥」

「人の心配してる場合かい?」


ロロノアに駆け寄ろうとする前に、ピカッとまたアイツが現れる。

黄猿は光の矢をあたしに向かって放つ。それをかわすうちにロロノアからは離れてしまう。


「今度こそ終わりだよォ〜」


黄猿はロロノアの体に向かって右足を上げた。


「(間に合わねェ!)」


「ゾロ〜〜っ!!」


振り降ろされる寸前、誰かが黄猿の足を止めた。

矛先を変えられた光はピュンと反れた場所に放たれた。


「あんたの出る幕かい。“冥王”レイリー」

「若い芽を摘むんじゃない‥これから始まるのだよ!彼らの時代は‥!」

「おっさーん!!」

「レイリー、さん‥」


レイリーさんが来てくれればもうあたしが足止めする必要はねェ。

あたしは空に向かって手をかざした。

バサッ。


「ん〜?」

「早く逃げなさい。キミに何かあっては彼女に顔向けできんからな」

「ありがとう‥レイリーさん」


あたしはシャーナに飛び乗った。


「逃がさないよォ〜」

「シャーナ!」


加速する。ヒュッヒュッと光の矢があたしとシャーナを狙う。


「‥っ」


何発か体を掠めた。きっとシャーナの体にも当たったはずだ。

あたしは最後に一度振り向いた。黄猿は追って来ない。


「生き延びろ‥麦わら」





‐ ‐ ‐ ‐ ‐





「取り逃がしてしまったねェ〜」

「彼女には自由に生きさせてやりたいのだよ」


彼女も自由だった。

誰にも囚われず、思うままに生きていた。

目を閉じればすぐに蘇る、眩しい金髪に深い緑の瞳。

懐かしいものだなぁ。


「あんたがこの島にいる事は度々耳にしてたけどねぇ。本当だったんだねぇ」


さァ、わたしも新しい時代に賭けてみようかね。








懐かしい君にさようなら
(訪れる、新しい時代)












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