“黄金(きん)の魔女”
その呼び名を聞いてやっと私の記憶が蘇ってきた。
手配書発行当時、名前も知れず、手がかりも金髪とタトゥーのみという異例の賞金首で巷を賑わせた。
起こした事件が少なく1億3000万の賞金で止まってはいるけれど、その実力はそんなものじゃない。
「黄金の魔女は今はいい!それより目の前の海賊共だ!全兵一斉攻撃を開始する!海賊共を討ち取れ〜!!!」
すっかり見えなくなってしまった魔女さんに、海軍も成す術がないようね。
突っ走ってくる海兵を見て、今は考えるのはやめましょう、と私も逃げる体制に入った。
‐ ‐ ‐ ‐ ‐
黒い鳥、シャーナに跨がりながらあたしは27番GRに向かっていた。
「(早くしねェと大将が来ちまう)」
大将を相手に負けるかなんてやってみねェとわかんねェけど、無傷って訳にはいかねェだろ。
まぁやるにしたってあれがないとしっくり来ねェから、まず取りに行くのが先なんだけどな。
しかし27番GRが見えてきたとき、あたしはひどく後悔した。
「(もう居んじゃん海軍の軍艦が!)」
わああああ、と騒ぎ逃げ惑う海賊たち。
ピカッと何かが光ってヤルキマン・マングローブが折られた。
「(ありゃ黄猿だな)」
あたしは黄猿に見つからないように建物の裏に降りた。
バサッとシャーナも小さくなる。この子は“デカデカの実”を食べた鳥(種類は何とかっていう珍しい鳥なんだって。名前忘れちまった)。あの人からの貰いモンだ。
「また呼ぶからどっかで待ってな」
返事の代わりにバサッと一度羽ばたいた。
嘴を軽く撫で、その場を後にした。
* * *
「おい聞いたか!?七武海まで動いてるらしい」
「(おいおいマジかよ)」
鍛冶屋への移動中、そんな会話が聞こえてきた。
ホント厄介なこった。
「おいおっさん」
建物の裏を通りながらだいぶ時間をロスしちまったけど、誰にも見つからず鍛冶屋に着いた。
しかし肝心の鍛冶屋の親父が居ねェ。どうやらこの騒ぎで逃げ出しちまったみてェだ。
とはいえ運の良いことにあたしのサーベルは綺麗に研かれて、机の上に置かれていた。
「ありがと!おっさん」
この場に居ないおっさんに礼を言って、サーベルを腰に提げた。
慣れた重みに安堵して、あたしは鍛冶屋を出た。
向かう先は、アイツの宝物。
鬼ごっこはここまで
(今度はこっちから)