『ねぇ、ゾロ』
「ふんっ‥ふんっ‥」
いつもの鍛錬中、何が楽しいのか俺がダンベルを持ち上げているのをじっと見ていたお前は、いきなり口を開いた。
『ゾロはそんなに自分鍛えて何になりたいの?』
「ふんっ‥ふんっ‥っ」
カシャン、と俺の身長程あるダンベルを台に下ろして、水の入ったボトルを手にとった。それを嚥下すれば、熱くなった身体を冷やすように冷たいそれは身体の中を流れていった。
『あ、‥はい、タオル』
「‥あァ」
いきなり差し出されたタオルに一瞬躊躇ったが、折角の行為に大人しく受け取った。
俺が受け取ったのに満足したのか、笑顔を浮かべてお前は続けた。
『それで?何になりたいの?』
「最強」
『なんで最強になりたいの?』
「世界一の剣豪になるためだ」
『なんで世界一になりたいの?』
「それが約束だからだ。んとに質問の多いヤツだな」
『ゾロのこと知りたいからだよ』
「は?」
瞠目した。何言ってんだコイツは。
あァそうか、聞き間違いか、と思った矢先、お前はもう一度同じことを言った。
『ゾロのこと知りたいから色々聞いてるの』
どうやら聞き間違いじゃねェみてェだ。
とはいえ、知りたいにも理由は様々だ。仲間の一人として知りたいのか、単なる好奇心から知りたいのか、それとも、
「‥なんで知りたいんだよ」
『ゾロが好きだから』
「……」
『嘘だと思ってる?』
「い、や‥」
正直嘘だと思ってる。というか、こうも無表情に言われるとそう思わずにはいられない。
『ホントだよ?証明してあげよっか?』
「‥?」
『ゾロはねー、東の海出身でしょ』
「……」
『好きな食べ物は白米とお酒のつまみで、身長が178センチ!』
「……」
『それからー、すごく強くて』
「そりゃお前の感想じゃねェか」
『えー?だってホントのことじゃん』
何をするのかと思えばいきなり立ち上がって、指折りしながら自分が知る俺の情報をつらつらと言い始めた。
しかしその大半はコイツ独自の意見であって、俺はそれを認めない。
かっこいいだの、優しいだの、
『それからねー』
守ってくれるだの、包容力いっぱいだの、
『ね?証明できたかな?』
全部、お前が想ってくれてるって言ってるようなもんじゃねェか。
『言ってて思ったんだけど、あたしゾロのこといっぱい知ってたんだね』
そう言って崩れた無表情に、胸を小さな痛みが駆けた。
気付けばその柔らかい笑顔を浮かべた頬に指先で触れていた。
「もう一つ教えてやる」
『なに?』
小首を傾げた顔に、そっと近づいて、
「今日は俺の誕生日だ」
キスをした。
小さな小さな恋の種
(芽吹いてそして、咲き誇る)
From もこ
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From むぎ