『ロー』
俺の名を呼ぶ、その唇を塞いだ。
すっかり慣れてしまったのか、何の反応も示さないまま瞼だけを閉じる。渇いた唇同士の、触れるだけのキス。
いつから、こんなに口付けることが虚しくなった?
腕を引いて少し乱暴に抱き締めても、俺の背中に回された腕に力なんて籠っちゃいねェ。添えられただけの、両腕。
いつから、抱き締めることが意味をなくした?
『じゃあ、明日早いから』
あっさり腕はほどかれ、振り向きもしないで扉の向こうへ姿を消した。
いつから、俺の目を見て話さなくなった?
いつから、心が触れあわなくなった?
「‥っ」
終わりが近づいているかもしれない。それは薄々気付き始めていた。
だが、それを俺は認めちゃいねェ。アイツを離すつもりもねェ。
『お兄さんさ』
「あ?」
『なんでそんな悲しそうなの?』
例え他に男が居ようと構わねェ。俺への気持ちが薄れていたって構わねェ。
俺にはアイツが必要だから。俺がアイツを愛しているから。
出逢った瞬間、運命だと思ったから。
『ロー、好き、愛してる』
「んだよ、いきなり」
『へへ、言いたくなっただけー』
もし別れを言おうもんなら、その唇を塞ごう。
もし居なくなろうもんなら、俺の全てをかけて見つけ出そう。
アイツが居れば、他には何も要らないんだ。
「 」
何もない、無に等しい空間でポツリと君の名を呟いた。
どんなに僅かな可能性だっていい。君を失うことが、何より恐ろしいから。君以外、俺には何もないから。
君は俺の、運命の人だから。