「シンクって面白いって言われない?」

「一度だって言われたことないね。」

ぶすっとしてても返事をしてくれる。はじめの受け答えが嘘のように会話が弾み、ついニヤニヤしちゃう。
ニヤニヤするたびにシンクがすごく嫌そうな顔をするから、それが面白くてこの顔がもとに戻らないってこと、彼は分かっているのだろうか。

「(そんな変わったこと言うの…あんたくらいだよ…)」

「へ?何か言った?」

シンクがボソリと何かをつぶやいたが、声をあげて笑っていた私の耳に届くわけもなく…
聞き返したけれど、結局何をつぶやいたか教えてはもらえなかった。

そんな他愛もない話をどのくらいしていただろうか。
私が一方的にしゃべっているようなものだったが、けっこう長く話していたかもしれない。

急にシンクが窓の外をむいたのは、私がそんなことを思っている時だった。
その視線をたどって私も窓の外をみたが、特に変わった様子はない。
シンクに視線を戻すと、彼はいままで外していた仮面をつけて、部屋の中にある扉へと向かって歩きだしていた。

「え、シンク?」

呼び止めたのは、この場所に一人になってしまうからじゃない。
彼と友達になりたいと思い始めたからだ。

しかし、名前を呼ばれた本人は私の呼び掛けにも答えずスタスタと扉へ向かっていく。
シンクの右手が扉の取っ手に触れるか触れないかに、もう一度彼の名前を呼んだ。
すると、今度はゆっくりと私の方に振り向いた。

「アリエッタが戻ってきたから僕はもう用済みだろ?」

アリエッタ?
あ、私をここに連れてきた女の子がたしかそんな名前だった気がする。
確かにシンクにこの場に残ってもらったのは私が怖いのがダメだったからなのだが、そんな用済みだなんてそんな言い方しなくてもいいのに…

「用済みってなによ。私、シンクの事そんなふうに思ってないんだけど。」

少しむくれると、仮面の下でシンクが微笑んだ気がした。
部屋の中が暗くてちゃんとみえてなかったから、そんな気がしただけだけど。

「僕とここで会った事は誰にも言わないでよね。誰かに言ったら次こそ本当に殺すから。」

扉を開けながらそう言ったシンクは、私の返事を待たずに扉の向こうへと消えてしまった。


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