「覚悟しなよね…」

そう言ってゆらりと立ち上がった彼は、ゆっくりと私の方へ近づいて来た。
先ほどナイフを突きつけられた事を思い出して血の気が引いて行く。
目がすわっていてものすごく怖いのだが、ここで諦めたら一人の恐怖を味合わなければならないため、私はぐっと勇気を振り絞った。

「あの、裾引っ張ってしまって本当にごめんなさい。で、でも、腰が抜けちゃって動けないの。お願いだからこんなところに一人にしないでっ」

そう。実は私、腰がぬけました。
だってだって!!
ただでさえ怖いの苦手なのに、頑張ろうとした矢先に声かけられて驚いて、その上ナイフまで突きつけられて限界だったのよ私は!!
だから私悪くない!驚かせたあなたがわるいんだからねーっなーんて、そんなこと流石に怖くて言えなかったけど。

「えっとね、だからその…立てるまで一緒にいていただけないかなぁと思って…」

てへっと、効果音でもつきそうな笑顔で頼んでみた。

「はぁ?なんで僕があんたのためにそんな事しなくちゃいけないわけ?」

私だってあなたに一緒に居てなんて頼みたくないよーっ
ナイフ突きつけて来た人だよ?怖いよ!
けど、さっき「後が面倒だから今は殺さない」っていってた。
という事は、今はこの人にどうこうされる心配はないってことだよね?
それならば一人で怖い思いするよりこの人に一緒にいてもらった方がいいもの!!

それに…顔がイオンそっくりだからかな?
何故か心から怖いって思えないんだ。

「ほら、私に今死なれたら面倒だってさっき言ってたじゃないですか。私…いまあなたに見捨てられたら恐怖で死んじゃうかも。ダイイングメッセージに仮面の人って書いちゃうかも!!」

なーんて、見捨てられたくらいで死ぬわけないんだけど、引き止めるのに必死な私。
ちょっと大げさだったかなぁ?って思ってたら、くるりと引き返した彼が、私の目の前までやってきた。
そして、まるで汚物でも見るようなすっっっっごく嫌そうな目で私を見下ろし、「チッ」と舌打ちをした。

その行為に、やりすぎたかもって冷や汗をかいたが、私をすり抜けて後ろに立ってる柱によりかかった。

おおお、これはもしや!
一緒に居てくれるってこと!!?

「あ、ありがとう!!」

お礼を言うと、またもやすごく嫌そうな顔をして私を睨みつけてきた。
そんなに嫌なんだね…


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