仮面の彼
連れて行かれた先は、どうやらお城のようようだった。
しばらく人の出入りがなかったのではなかろうか?と思わせるほど古く、そして暗い感じの。
鳥の足から開放された私は、お城のバルコニーへと下ろされた。
「少し…そこで待っていてください。」
鳥の魔物を操っているアリエッタは、そう言うと、整備士の男性を連れてどこかへ行ってしまった。
いや、待っていてと言われてもね、イオンたちが絶対心配してるだろうからまったりなんてしませんけどね!!!
そう思ってお城から抜け出すべく、バルコニーから下を覗いたのだが…。
やばい。
これはタルタロスの比じゃないほど高い・・・!
ごくりっと喉をならし、梯子らしきものを探そうと、くるりと方向転換をして城の中に入ろうとしたのだが、これまた・・・。
尋常じゃないほど暗い。しかもずいぶん使われてないようで、カーテンやベッドがボロボロ。クモの巣もたくさんかかってて、怖いよ、これは怖いよ!絶対オバケでそうな感じだよ!
洋館って誰も居ないとこんなにおどろおどろしいの?
チーグルの森はみんなが居てくれたからどうにか我慢したけど、やっぱ怖いの無理だよおお!
しかしそうも言ってられないと、勇気を振り絞って部屋に一歩足を踏み入れようとしたとき、誰もいないはずの背後から「おい。」と、肩を叩かれて…
「ぎやゃああああああああああああああああああああああああああ!」
今まで出したことのないほど大きな声を上げて、両手で耳を塞いでその場に座り込んだ。
目をぎゅっとつぶり、震えたくないのに怖くて歯がガタガタと音を立てる。
「ちょっと…」
声をかけたてきた誰かは、小さくなって震える私に再度話しかけたようだが、耳をふさいでる上に怖さで周りが見えなくなっている私にはその声は届かない。
いくら声をかけても反応のない事にため息をついたその人は、やれやれというように耳を抑えている私の右手をぐいっとひっぱった。
反動で私の体が右に起き上がり、声の主と視線が交わる。
あ、いや、仮面をかぶっていたので、実際には交わってはいないのだが。
そこに居たのは、イオンのように綺麗な緑色の髪の毛で、仮面を付けた男の人だった。
オバケでなかったことを悟った私は、急に恥ずかしくなり顔を真っ赤にする。
しかも顔は涙でぐしゃぐしゃだ。
「あ、あはは、人…」
私の右手をつかんだままのその人は、そんな私の状態を見て、「はぁ」と一つ、大きなため息をついた。
「あ、えと、ごめんなさい。大きな声出しちゃって・・・あの、オバケがね、そう!オバケがでそうだなって!思ってたところに声かけられたからてっきりオバケが出たかと思って、あの、あ、いえ、あなたがオバケにそっくりとかそんなことじゃなくて、怖いなって思ってたところだったからで、けしてあなたが怖いとかじゃなくて、いやだからあのっ」
必死に言い訳を試みたが、試みればみるほどドツボにはまって言葉にならない。
すると、仮面を付けた男は、掴んでいた私の右手をすっと離して、「こんな小娘があいつのね…」とつぶやいた。
そして私を観察するようにしばらく眺めたあと、まるで飽きたとでも言わんばかりにくるりと踵を返し、その場から立ち去ろうとする。
それを見て、私は急いでその仮面の人の服の裾をひっぱったのだが…
だって、こんなところに一人で残されるとか嫌じゃない?
しかし、どうやらそれは間違った選択だったようだ。
まさか私がそのような行動に出るとは思いもしなかったのだろう仮面の人は、私に引っ張られて足が絡まってしまったようで、つるっと滑って顔面から床に叩きつけられてしまった。
これが漫画だったら、「グシャッ」という効果音が背景に描かれているだろう。
「わー!!ごごご、ごめんなさい!!だ、大丈夫ですか!!!」
そんなつもりはなかったんですーっと、転ばせてしまった彼のもとへと慌てて駆け寄る。
うつぶせになった彼の背に手を当てると、パンッとその手を振り払われた。
すると、転んだはずみで仮面をはめる部分がゆるくなってしまっていたのだろう。
私の手を振り払った拍子に彼の仮面が外れて…素顔が…
イオンに似ている。
そう思ったときには、後ろを取られて首になにか刃物のようなものを押し当てられていた。
「見たね?」
「え、え、見た…けど、見たらダメだったんですか?イオンにそっくりだったけど、もしかしてイオンのご兄弟?」
言うと、更に刃物が首へと押し付けられる。
もしかして私、禁句を言っちゃった??
「いや、でも顔見ちゃったけど、見たらいけないものだったんなら私、見たことを誰にも言いません!」
だから殺さないでー!!!
心の中でそう叫びながらしばらくの間耐えていると、無言で刃物を押し当てていた彼が、すっと刃物を引いた。
そしてすくっと立ち上がり、くるりと私に背を向ける。
「今見たこと、誰かに言ったら殺す。とりあえず今は殺さないよ。今あんたを殺ると面倒なことになるからね。」
そう言って私をこの場に置いて立ち去ろうとした。
開放された私は怖さでその場にへたりこんでしまっていたのだが、置いて行かれる…そう思ったら彼の裾を引っ張ってしまっていた。
再度私がそのような行動に出るとは思わなかったのだろう彼は、またもや足が絡まって顔面から床に叩きつけられた。
「あ、ごめんなさい…!」
「あんた…わざとでしょ…」
殺気を隠しもせずにゆっくり立ち上がる彼に、どうやって許してもらおう。
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