そして誘拐

それから、疲れているだろうからということでこのまま宿屋で一泊した。
次の朝、国境を越えてカイツールの軍港へと向う。
アニスが追い返された国境も、ヴァンの旅券であっさりと通り過ぎることがでた。

「うあぁー、やぁっと帰れるぜ!」

両腕をめいいっぱい伸ばしてルークが言うと、「軍港から海を渡らないとバチカルにはつかないけどな」とガイが切り返す。
それを聞いたルークは、ものすごく嫌そうな顔をして文句を言った。
そうだよねー、もう帰り付いた気でいたんだもんね。

そんなやり取りのなか、一番後ろを歩いてるティアは、なにか考え事をしているのだろうか。さきほどから一言も言葉を発していない。
昨日の…お兄さんの事で悩んでいるのかな?
声をかけてみようか迷っているうちにカイツールの軍港の中に入ってしまい、タイミングを失ってしまう。
早く声をかけておけばよかった…と後悔していた時、ものすごい爆音が軍港中を響き渡った。
建物の隙間から、船や建物が燃えているのが見える。
私たちが急いで船へとたどり着いた時には、たくさんの船員や兵士がその場にたおれていた。

「大丈夫ですか!!?」

近くに倒れていたお兄さんを抱き起こすと、「ま、魔物が襲ってきて…」と一言言って気を失ってしまった。
ティアがすぐさま駆けつけて治癒を施すと、苦しそうな表情が徐々に和らいでいく。
しかし、これだけの人数に治癒をかけていてはティアの体力がもたないだろう。
そう考えていると、大きな影が地面を被った。
空を見上げると、ピンク色の髪の女の子が、大きな鳥にまたがって空を浮遊しているのが目に入る。
その鳥の右足には、人が一人握り締められていた。

あの女の子…ライガクイーンの…あの夢の中にでた女の子に似てる…

「ネクラッタ!!!」

私と同じように女の子に気づいたアニスが、その子に向かって話しかけた。
アニスの知り合い?
ネクラッタと呼ばれたその子は、声を振り絞るようにして抗議する。

「アリエッタ、根暗じゃないもん!!!アニスの意地悪っっー!」

「アリエッタ、誰の許しをえてこんなことをしている!」

続けてヴァンが話しかけると、アリエッタは小さな声で「ごめんなさい」とつぶやいた。
アッシュという人物に頼まれたとアリエッタが言うと、ヴァンは一瞬強ばった表情をしたような気がする。

そして、アリエッタの合図で、鳥の魔物がくわっと大きく羽を広げ、足を突き出して、私めがけて急降下した。

「ヒトミ!!あぶない!」

イオンの声が聞こえたが時すでに遅く、一瞬のうちに鳥の左足に捉えられた私は空高く舞い上がる。

「きゃああああああああ!」

下の方から私を呼ぶみんなの声が聞こえてきたが、それどころではない。
高い!怖い!今ここで指を離されたら私確実に死ぬ!!
ってゆーか、私高校の制服なのよ!
スカート!パンツ見えちゃう!!!
足を体操座りのように曲げてふくらはぎでスカートの中身を隠したらちょっと安心して、ふーとため息をついた。

あ、いや、そんなことを心配している場合ではないよね私!

「ね、ねぇアリエッタさん?私なんでこんなことになってるのかな!?」

鳥に捕まった状況だが、頑張って声を上げてアリエッタに話しかけてみた。
魔物の背中に乗ってる彼女の姿は全く見えないけれど、私の声が聞こえたみたいで、彼女は私の質問に答えてくれた。

「ごめんなさい…です。本当はこんなひどいことはしたくなかったけど、他にあなたを連れていく方法がわからなかったから…。もう少しだけ我慢してください…」

それから、魔物がグンっっと角度を変える。

「船を整備できる整備士さんと、この女の人はアリエッタが連れていきます。返して欲しければルークとイオン様が、コーラル城に来い!です!」

そう言うと、アリエッタはすごい勢いで更に空高く飛んでその場を離れた。
え、私もしかして誘拐されちゃった!?


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