カイツール

フーブラス川という川を渡り、野原を突っ切って、ついに目的のカイツールに到着したのは太陽が西に傾き始めた頃だった。

「へぇ、ここがカイツールかぁ」

カイツールという場所は、思っていたよりも何もない所だった。
セントビナーもエンゲーブも、ヨーロッパな街並みがとても綺麗で村や町って感じだったけど、ここは休憩する場所なだけのような感じがする。

「ここは砦なんですよ。あそこにある検問所の向こう側が、ルークの国「キムラスカ王国」になるんです。」

「え!?あそこからもうルークの国なの?じゃあもうすぐじゃない。よかったね!ルーク!」

イオンから検問所の向こうがキムラスカと聞いて嬉しくなった私は、ルークの手をとって喜んだ。
ルークは私につられてかニッコリとわらったが、それが恥ずかしかったのかすぐにムっとした顔になった。
そんで眉間にしわを寄せて「あーだるかった。早く城に帰ろうぜぇ」とだるそうにつぶやく。

「えー、なにその態度!本当は嬉しいクセにぃ」

ツンツンとルークのほっぺたをつつくと、すっごく嫌そうに手を振り払われた。
ブスっとしてるけど顔が赤いぞ〜と思いながら、早く行こうよ、と、一同国境に向けてあるきだす。

「あ、あれ、アニスじゃねぇか?」

ルークの声に、宿に泊まろうかなどと話していた私たちは一斉にルークを見た。
そしてルークの視線をたどると、確かにそこには可愛らしいピンクの服を着た、ツインテールの女の子がいるではないか。
しかもその少女は、身体を左右にくねらせて、マルクト兵におねだりをしている。

「証明書もぉ、旅券もなくしちゃったんですぅ。通して下さいぃ。お願いしますぅ」

な、なんかものすごく可愛いんだけど、え、これ本当にアニスだよね?
可愛らしいおねだりもさすがに兵士には通用せずに、冷たくあしらわれてしまったアニスは、くるりと兵士に背を向けて、しょんぼりとこちらに向かってくる。
でも私たちの存在にはまだ気づいていないようで、ゆっくりと瞳だけをマルクト兵にむけながら意地の悪い顔をしてこういった。

「月夜ばかりと思うなよ…」

ひいいいいい!!!!
こ、怖い!なんかものすごくアニスが怖いっっ!!
思わずイオンの服の端を少しつまんで泣き笑いをすると、それを横目で見たイオンがクスリと笑う。

「アニス。ルークに聞こえちゃいますよ?」

イオンは笑ったままアニスにそう伝えると、そこでやっと私たちに気づいた彼女は急いでこちらにかけてきた。
そして、周りに目もくれず、両手を大きく広げてルークに抱きつた。

「きゃわーん!アニスの王子様ーん!」

勢いが勝って、ルークは体のバランスを崩してよろけてしまう。
その反動でアニスが持ち上がり、まるで、ダンスか!とツッコミを入れたくなるような綺麗な一回転をキメた。
その光景を見ていたガイが、しれっとジェイドの影に隠れて「女ってこえー」とつぶやいたのを私は見逃さなかった。
ガイ。
全ての女がアニスのようだと思ってもらったら困るんだよ。

「ルーク様、ご無事で何よりでした〜!もう心配してました〜!」

「こっちも心配してたぜ。タルタロスから墜落したって?」

ルークが心配そうにいうと、アニスは更に喜んでルークに抱きつく。

「そうなんですぅ…。アニス、ちょっと怖かった…てへへ!」

いやぁ、そのてへへの破壊力のあることあること。
自分が可愛いことを知っているな、と思った瞬間だった。
アニスがタルタロスから落ちてしまったとき、私は本当に心臓が潰れるかと思った。
だってあんなに高い場所から落ちたんだよ?
あたしだったら確実に仏様だ。
でも、その落下現場を一緒に見たはずのイオンが余りにも冷静だったからおかしいと思ってたんだ。
タルタロスから無事に脱出してこのカイツールにみんなで向かってる途中、心配になってジェイドにアニスの事を伝えたときも、「アニスなら心配ないでしょう」の一言で片付けてしまわれたし。
その理由が今分かった気がした。
いや、良い意味でだよ??

「アニス、新書は無事ですか?」

このままでは収集がつかないと判断したのだろうジェイドが、アニスにそう尋ねる。
それまでルークにべったりくっついていたアニスだったが、やっとルークから離れてジェイドに向き直った。

「あ、大佐!もちろんです!ここに!」

アニスの肩に乗っている、ちょっと個性的なぬいぐるみを指さしながらアニスが答えた。
ギザギザに縫い上げられたそのぬいぐるみは、ハロウィンを思い出させるようなデザインでなんだか可愛い。
名前をトクナガと言うらしく、アニスはこのトクナガを巨大化させて戦うんだって!
巨大化ってどんなふうなんだろ?
ちょっと見てみたい気もする。

「ところで、どうやって検問所を抜けますか?私とルーク、ヒトミは旅券がありません。」

そうだ。
アニスはさっき旅券がないから検問所を抜けれなかったんだから、私たちはキムラスカの方にはいけないのか…
みんなで顔を見合わせて、今後どうすればいいのか考え出す。
すると、ガイが検問所の方をみてニッコリと笑った。

「心配いらないみたいだ。お迎えが来てる。」

そう言われて検問所を見ると、これまたなんだかものすごい服を着てポニーテールをしているヒゲのおじさまが歩いてくるのが目に入った。
え、あの人がお迎えさんなの?


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