ガイという男
こんなに走ったのは久しぶり!
というくらい走った。
もとより体力のない私は、ひぃひぃいいながら必死にみんなについていく。
みんな剣やらなんやら武器を持っているのになんであんなに早く走れるんだろうか。
私なんか手ぶらだというのに、おいていかれないようにするのがやっとだ。
というか、たぶんみんなは私に合わせてゆっくり走ってくれてる気がする。
おぼっちゃま育ちのはずのルークですら顔色ひとつ変えずに走っているというのに…
まぁ、あの子すっごい腹筋割れてるから体力とかすっごいありそうだけど。
でかメロンで走りにくいだろうはずのティアも余裕っぽいし。
戦えないのが心苦しいとか思ってる暇あったらまずは体力からつけるべきなのかなー私。
それから、気づかなかったんだけどイオンは身体が弱いらしい。
そういえばチーグルの森で魔法を使った後倒れていたし、そのことについてジェイドに怒られていたな。
私の世界に来たときも倒れてたし。
それなのにさっきは私をかばってくれて、その前にも事あるごとに私を助けてくれてた。
本当にイオンって優しいんだから!
そんな身体の弱いイオンと、体力のない私がギブアップをしてしまい、セントビナーへの道中で一度休憩をとってもらうことにした。
ツンデレルークがチラチラと気にかけてくれてるのがすごくうれしい。
そうそう、休憩のついでに、ずっと疑問に思っていたガイに自己紹介をしてもらうことにする。
どうやら彼については私だけが疑問に思っていたわけではないらしく、ルーク以外の全員が、彼は何者なのだろうと不思議に思っていたようだ。
「俺はガイ、ファブレ公爵のところでお世話になってる使用人だ」
よろしくっ、と、笑うガイの歯が一瞬光って見えた。
なんという爽やか青年なの!
挨拶をしながら、ひとりひとりの手をとって握手をしていたガイだったが、ティアが握手を求めて手を出そうとすると、すごい勢いで飛び退いて逃げた。
その距離ざっと3メートル。
ん?この距離感には覚えがあるぞ?
「・・・ガイは女嫌いなんだ」
ルークが呆れた顔でガイを見た。
ガイは「私のことは女だと思わなくてもいいわ」とさらに近づいてくるティアが怖いらしく、さらに距離をとっていた。
ここまでくると女嫌い…というよりも女性恐怖症みたい。
「えと、さっきも自己紹介したけどあらためて…ヒトミです。さっきは助けてくれてありがとう!」
「ああ、無事に戦艦の外に降りれてよかったな。まさか君がルークと知り合いだとは思わなかったよ。」
3メートルの距離をたもちつつ、先ほど助けてもらったお礼をいう。
あの時は女性恐怖症だなんて知らなかったから、距離を取られることにちょっとムカっと来ちゃったんだよね。
こんな事情があるとは知らなかった。
うう。反省。
「あれ?ガイとヒトミって知り合いだったのかよ?」
ルークが不思議そうに聞いてきたので、甲板での出来事を簡単に説明した。
私が魔獣に襲われてるところを助けてもらったこと。
何かを食べさせてもらって元気にしてもらったこと。
戦艦から降りる縄梯子があることを教えてもらったこと。
あ、後で知ったんだけど、あの時食べさせて貰った物は「グミ」と呼ばれるもので、こちらの世界ではグミを食べると身体のキズや状態異状が治ったりするんだって。
薬よりも万能だよね!!
すごいなぁ!
グミが私たちの世界にあったら、医者は廃業しちゃうね!
「ガイはファブレ公爵家の使用人…ということはキムラスカ人ですね。ルークを探しにきたのですか?」
ジェイドが聞くと、
「ああ、旦那様から命じられてな。マルクトの領土に消えていったのは分かってたから、俺は陸づたいにケセドニアから。グランツ閣下は海を渡ってカイツールから捜索してたんだ」
と、ガイ。
もう、まったくもって話の内容がわかりません。
キムラスカって言うのは、確かルークの住んでいる国の名前で、マルクトがジェイドが住んでいる国の名前だったよね。
それで、その二つの国が戦争をしないようにしているのがイオンで。
イオンは中立のローレライ教団?というところの偉い人なんだよね。
ケセドニアとカイツールは聞いた気がする。街の名前だったような…
えと、それから…グランツ閣下っていうのは誰だろう?
そう思っていると、ティアがつぶやくように「兄さん…」と言った。
ん、グランツ閣下というのはティアのお兄さんの事なのかな。
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