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「ひぃぃぃ、高いよ、怖いようううう」

一歩、また一歩と頑張って縄に足を下ろす。
下を見たら怖くて動けなくなると思ったので、必死に上をむいて、縄梯子を見ながら自分と下との距離を計っている。
最初に縄を下ろした長さから逆算すると、おそらく半分は降りてきているだろうと予想されるが、この調子だと地面に着くまでにはまだ時間がかかるだろう。

船の甲板から見た時、戦っている最中だったみんなはどうなっただろうか。
先程まで騒がしかったが、今は恐ろしく静かだ。
もしかしてもう戦いは終わったのだろうか。
だとしたらどちらが勝ったのだろう。
まさか、イオンは大丈夫だよね?

早く降りて確かめたいけど、恐怖が邪魔をしてなかなか降りられないもどかしさにイライラする。

「うう、だいぶ降りてきたよね、あと少し、あと少しな気がする!!」

そろそろ下を見て高さを確認しようか…
そう思って視線を下にずらそうと顔を横に向けた。
すると、視界の端に何かがが動いた気がした。
もしかして、と思って下をみると、やはり、イオンがこちらに向かって走ってきている姿が見えた。

イオン…!無事だったんだ!!!

下から私を呼ぶ声がする。
早く降りなきゃ、イオンが呼んでる!!!

そう、急いだのが悪かったらしい。

「ヒトミ、危ない!」

「きゃあっ!」

焦ってしまって足が梯子から滑り、縄に捕まろうと思ったが、間に合わず、私は地面へと吸い込まれるように落ちてしまった。
もうだめだっと、ぎゅっと目をつぶる。

だが、地面に叩きつけられる前に、何かが私の下へと潜り込んだ気がした。
ついでに、私以外の誰かの呻き声。
しかも、けっこうな高さから落ちたはずなのにあまり痛くない。

もしかして…と思って目を開けると、イオンが私の下敷きになって地面に倒れてるのが目に入った。

「え、い、イオン!イオン!!大丈夫!!?」

急いでイオンの上から退くと、「うっ」と小さな呻き声を上げる。
そしてゆっくりと目を開いた。

「大丈夫ですよ。ヒトミ、そんな顔しないでください」

「そ、そんなことを言われても…明らかに痛そうじゃないバカ!なんで飛び込んできたの!」

「本当に大丈夫なんです。それよりも、ヒトミ…!」

ふわっ

と、風が吹いたかかと思うと、イオンの両腕がスッと伸びてきて私の首へと絡みついた。
何が起こったのか理解するのに時間がかかり、その間、イオンの頭が私の肩へ押し付けられ、身動きが取れなくなる。

「心臓が、壊れるかと思いました。ヒトミっ」

いやいやいや、心臓が壊れそうなのは今の私なんですけどもイオンさん!
ちょ、頼む!
誰かこの状況を説明してくれ!!!!

「ああああああ、あの、イオン、えっと、どうしたの?」

「あなたが気絶させられて兵士に連れていかれて…僕はその場にいたのに何もできませんでした。ヒトミに何かあったらと思うと…不安で…」

言葉と同時に、さらに私に回された手に力がはいる。

ああ、そっか。
イオンは私を心配してくれてたんだね。
だからそんなに慌てた様子なんだ。
確かに…ものすごく怖い目にあったし、ガイが助けてくれなかったらきっと私は死んでたと思う。
でもそれはイオンのせいでもなんでもないのに…

本当にイオンってどこまで優しい人なんだろう。

思わず、イオンの背に手を回してぎゅっと抱きつき返すと、その行為に驚いたのだろうイオンがゆっくりと顔を上げた。
至近距離で瞳が交わる。

「イオン、心配してくれてありがとう。でも、私はちゃんと元気だよ。さっきの言葉、そのまま返す!私は大丈夫だから、そんな顔しないで?」

「ですが、あなたを一人にしてしまって…危険な目にあわせてしまって…」

「だってこれはイオンのせいじゃないじゃん!こっちの世界が安全じゃないことは初めから分かっていた事だよ。私がこっちにきちゃったことだって、イオンのせいじゃないんだから。」

「僕が原因です!それに彼らは僕を連れ出すためにここにやってきたんです。ですかr ふぐっ」

あまりにイオンがしつこいので、背中に回していた手をはなして、イオンの鼻をむぎゅっとつまんだ。
だって、これ以上ごめんだのなんだの聴きたくなかったんだもん。
私がこの世界にやってきたのはイオンのせいじゃない。もしかしたらきっかけはそうだったのかもしれないけど、2度もイオンが消えた場所に不用意に近づいていた私の行為だって原因の一つだと思う。それに、イオンに会いたがってたのは私なんだ。
この襲撃にしたって、イオンを捕らえに来たあいつらが悪いだけでイオンは戦争を止めたいだけなんだから正義でしょ!!?

「あんまりしつこいと怒るよ?」

キッっと睨むと、とても複雑な表情になるイオン。
それがなんだか面白くって思わずクスリと笑ってしまった。

「な、なぜ笑っているんですか!」

顔を赤らめながら怒るイオンがまた可愛くて、ついつい笑が溢れてしまう。
そうそう、悲しい顔よりも、そんな表情の方がイオンには似合ってるよ。

「えー、ゴホン!ゴホン!」

わざとらしい咳の声が聞こえて、声のする方を向くと、いつからいたんだろう。
そこには、顔を赤らめてるティアと、ガイに口を抑えられているルークと、苦笑いしながらルークを抑えてるガイと、ルークの足元でこちらをチラ見しているミュウ。
それから…顔は笑っているのにどう見ても笑っていないジェイドがいた。

なんでティアは顔を赤くしてるんだろう。
不思議に思っていたら、イオンがすごい勢いで私から離れた。
突然離れたイオンを不思議に思って見ると、顔がティア以上に赤くなっている。

「あああ…の、ヒトミ、すすす、すみません。えと、思わず…だ、抱きしめてしまって…」

!!!!
あ、そうだった。私、イオンに抱きしめられてて・・・!!!

「いや、あのっ、この場合仕方ないと言うかあの、こちらこそごめんなさい…!!」

ってゆーか、ティアたちいつから私たちの事見てたんだろ…!
わーん!急に恥ずかしくなって来ちゃったっっ
イオンと再会してまだこ一日もたってないのに、イオンとのコミュニケーション過多でしょう私!ひいいい恥ずかしい!

二人で真っ赤になってうつむいていると、さらに大きな声で「ゴホンゴホン!」とわざとらしい咳の声がする。
顔を上げれば、眉間に皺。こめかみに血管を浮き出させながらも、にっこりと微笑むジェイドの姿があった。

「いいかげんこの場を離れたいのですが、そろそろよろしいですか?イオン様、ヒトミ?」

絶対零度の微笑みって、多分このことを言うんだ!!


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