「痛みはあるかい?」

金髪の男性にそう聞かれたので、左右の手を動かしてみる。
先ほどまでの痛みはすっかりと消え、まるで怪我などしていなかったように思えるほどだ。
とても驚いたが、魔法が存在する世界なんだ。
不思議なこともあるものだと納得する事にした。

「いえ、全然痛みはありません。ありがとうございました・・・えっと・・・」

「ああ、俺はガイ。人を探して旅をしているんだが、この戦艦が魔物におそわれてるところを見かけてね。」

「ガイさん、ですね。危ないところを助けて頂いて…ありがとうございました。」

名乗らせといて自分は名乗らないのは失礼なので、簡単な事項紹介をし、再度助けてもらったことのお礼を告げた。
ガイと名乗った金髪の男性は、自分が好きでした事だからお礼はいらないと微笑む。

しかし・・・

「あの、助けていただいたのはとても感謝しているのですが…私はあなたに何かしたのでしょうか?」

と、いうのも、ガイと名乗ったこの男性にすごく距離を取られているからだ。
彼と私の間には、ざっと2・3メートルはある。
こんな甲板の上、しかも屋外で風も強いというのにそんなに距離を取られると言葉が聞き取りにくいではないか。

「あ、いや、気にしないでくれるとありがたいんだが…」

いや、無理だろ!
ガイは気まずいのか、周りをきょろきょろと見回してから話題を変えてきた。

「ところで、君はどうしてこんなところに?そしてこの状況は一体・・・」

「私にもよくわからないんです。突然魔物が襲ってきて、、、そうだ、イオン!イオンをみませんでしたか!!?綺麗な緑の髪の色をした男の子なんですけど!」

自分の事で精一杯だったが、イオンはどうなってしまったのだろうか。
あれからどのくらいの時間がたったのだろう。

スクッと立ち上がってガイに一歩近づくと、彼は私が進んだのと同じ距離だけ後ろに下がった。
ん?なぜ後ろに下がる?
不思議に思ってもう一歩足を進めると、彼はもう一歩後ろに下がった。

「ちょっと、だからどうして私と距離をとるんですか!!」

「いや、だからそれはだな…!」

額に汗を垂らしながら、彼はまた一歩と後ろに下がった。
なんだか私がばい菌みたいじゃない!
少しだけムッとした私は、一歩、また一歩と彼に近づく。そうすると彼は下がるわけで、なかなか話が進まない。

ついに船ギリギリのところまで追い詰めて、これ以上は下がれないぞどうだ参ったか!というとき、船の下が騒がしいことに気がついた。
それに気づいたのは私だけではなくて、ガイも一緒に船の下を見下ろす。
するとそこには船の中ではぐれてしまったルークやティア、ジェイドが兵士と戦っている姿が見えた。

「あ、イオン!!!!」

3人から少し離れたところに兵士たちに囲まれたイオンの姿も見える。
よかった!無事だったんだ...!
いや、ホッとしている場合じゃない。
ルーク達は未だに戦っている最中だし、イオンも捕まったままだ。
しかも3人は兵士に囲まれて苦戦しているように見える。

「な、なんとか皆のところにいかないと…」

周りをキョロキョロと見回してみるが、いい案は浮かばない。
下を眺めていても仕方がないので、船の中の通路から外にでよう。
そう思って扉の方に足を向けると、「ヒトミ!」とガイに呼び止められた。

「中はだめだ。まだ兵士がうろついているし、今は扉が開かない。そこに緊急用の縄梯子があった。それを使うといい!無事に下に降りろよ!」

そう言って、ガイは船の甲板からひょいっと下へ飛び降りた。

「えええええっ!!!」

びっくりして手すりへ駆け寄ると、無事に下に着地してルークのそばへと走って行く姿が見える。
ちょ、生きてる!!こんな高さから飛び降りたのに!
ってゆーかルークの事守っているように見えるんだけどガイって何者なの!!?

しばらくみんなの様子を見ていたが、それどころではなかったのを思い出す。
とりあえず、私も船を降りないと・・・!!!

甲板の端まで行くと、ガイの言ったとおり緊急用の縄梯子が置いてあった。
それを手につかみ、下へと下ろす。
縄梯子なんて初めて見たけど、本当に縄で出来ているのね・・・
足をかけるところは木の棒を使っているが、基本は縄なので軽い。
下に降ろすと風で尋常じゃないほど左右に揺れた。

私はつばを飲み込んで、もうこの先何年分のだって位の勇気を振り絞って下へと降り始めた。
足をかけると、私の体重で揺れていた梯子も少しおとなしくなる。
一段、また一段とゆっくりゆっくり慎重に下に降りていった。

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