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大きな男の肩に担がれたようだ。
お腹にひやりと冷たく硬い感触、手足に血が集まる感覚からすると、おそらく間違いではないだろう。
断定できないのは、意識が朦朧としているからだ。
どこかに移動しているのだろう。ガシャンガシャンと甲冑の音が耳に障る。
「こいつ、どういたしますか。殺しましょうか。」
私を担いでいる男が、自分の上官なのだろう男に話しかける。
話しかけられた男は、しばらく沈黙した後にため息をつきながら答を出した。
「導師に反抗されても困る。殺すのはやめておけ。」
「ではどういたしましょう。」
「そのへんに捨て置け。そのうち魔物でも食われておわるだろう」
言われるが早いか、ふわっと体が軽くなったと思うと左半身に強い衝撃が走った。
どうやら投げ捨てられたようだ。
朦朧とする意識を振り絞って目をあけると、自分の下には多くの人の死体。
吹きつける風と太陽で、降板の死体の山に投げ捨てられたことを知る。
体を動かしたく力を入れるが、どうにも動かなかった。
人の血のにおいと汗のにおいが混じりあってひどい臭いだ。気分が悪い。
視線の先には、矢が刺さり、剣が刺さり、大量の血を流して死んでいる兵士の姿。
それから…
(ライガ…)
森で会ったライガのような動物たちが兵士の死体と一緒に転がっている。
見たくない。
チーグルの森で私に優しかったライガ。
その仲間の死んでいるところなんで、見たいわけがない。
身体が動かずこの場を離れることができず、せめて見たくないと瞳を閉じた。
(イオン…イオンは無事なんだろうか…)
さっきの男は「反抗されても困る」と言っていた。
なにか目的があってイオンを狙ったのだろうと考えられるので、ひどい事はされないはず...だと思いたい。
そう思っていると、フッと辺りが暗くなった。
太陽が何かで隠れたのだ。
日の差す方向が変わって日陰になったのかな、と思ったが、獣の唸る声でそうでないことを知る。
魔物がいるんだ。
唸りながらドシン、ドシンと自分に近づいてきているのが感じ取れた。
そして、私の横で気配が止まる。
耳のすぐ近くで、グルグルと低い声が鳴り響く。
(私、ここで死ぬのかな…)
半ば覚悟を決めて歯を食いしばっていると、バンッという音とともに、背中に風が走った。
私を狙っていたのだろう魔物の唸り声が消え、遠くの方で一声聞こえたかと思うと、そのまま気配が消えてしまった。
私の傍から何かに吹き飛ばされたのだと思う。
何事かと薄く目をあけると、そこには金髪の男性が一人剣を手にたたずんでいて、おそらく私を狙っていたのだろう魔物を見ていた。
魔物が死んだのを確認すると、剣を鞘に直し、ゆっくりと私に近づいてくる。
「まだ息がある…大丈夫か?しっかりするんだ!」
そして何かが口の中に放り込こまれ、いわれるがまま飲み込む。
なんだろうこれ、グミ?
ほんのり甘くて美味しい。
もう一つ口の中に入れられたので、今度は味わってもぐもぐと食べた。
すると、さっきまでひどかった頭痛が収まり、全く動かなかった身体も軽くなった感じがする。
横たわっていた身体をゆっくり起こすと、金髪の男性がにっこり笑っているのが目に入った。
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