皆が部屋を出ていってどのくらいたったのか。
外の様子を気にしながら部屋に隠れていると、アニスが戻ってきてくれた。

「イオン様、ヒトミ!!逃げますよ!早くこちらへ!」

ジェイド達とは別行動をし、ある場所で落ち合うことになっていると手軽く説明したアニスは、イオンの手をとって急いで部屋を出ていった。
私も急ぎ、続いて部屋を出る。

が、部屋を出たとたん、私の足は止まってしまった。
目の前に広がるのは沢山の兵士たち。
それも、重なるように倒れ、赤い液体を流していた。
これって…血…。

兵士たちから目を離すことができず、口元を両手で多って声にならない悲鳴をあげると、もう遠くの方まで走って行ってしまっているイオンから名前を呼ばれた。
現実に引き戻された私は、急いで踵を返しイオンを追いかける。

(なに、これ。沢山の人が血を流して…倒れてる…)

あまり走るのは得意ではないが、この場所に居たくないし、ぐずぐずしていたら私もあの人たちのように…
頭に浮かんだ嫌な映像を振り払って、走るスピードを上げた。
二人に追い付いたあたりで、私たち意外の足音がするのに気がつく。
私よりも早くそれに気づいていたアニスが、急に方向転換をした。
右手にあった階段へと滑りこみ、一気に階段を駆け降りる…が、下からも兵士が上ってくる音が聞こえてきた。
舌打ちをした彼女は降りるのをあきらめ、先ほど走っていた廊下の一階下に当たる廊下に出て再び走る。
しかし、その努力もむなしく、しばらく走ったところで兵士に挟み撃ちにされてしまった。

「アニス、親書を」

もう駄目だと悟ったのだろうイオンが、キムラスカ王国に届けるためのマルクトの親書をアニスに託す。
一瞬戸惑った表情を見せたアニスだったが、控え目に頷いたかと思うと、新書を懐へしまい、最後のあがきといったように兵士に食らいついた。
噛み付かれた兵士は邪魔だといわんばかりに腕を動かし、振り子のように動く腕に絶えられず勢いよく弾き飛ばされる。

「アニスー!!」

叫んだが、私の声は届かなかっただろう。
吹き飛ばされた場所が悪かった彼女は窓へと激突し、その拍子でガラスが割れてタルタロスの外へと投げ出されてしまった。
私は急いで追いかけ窓の外へと体を乗り出すが、アニスの姿はもうずいぶんと下の方まで落ちていってる。
「野郎テメェーぶっ殺す!!」という叫び声が聞こえたが、その頃にはもうその姿は肉眼ではとらえられなくなっていた。

「イヤァァァァ!!!アニスー!!!」

こんな高さから落ちたら、人間なんてひとたまりもない。
女子供に手を出すなんて、しかもまだあんなに小さいのに!なのに…!!

振りかえってアニスを吹き飛ばした男をキッと睨むと、睨んだ相手はイオンの両手を後ろ手縛って二人掛かりで拘束していた。
アニスだけでなくイオンにまで手をだすつもりなのか、この男は!
怒りで腸が煮えくりかえりそうになる。
握ったこぶしが、怒りで震えだした。

「イオンを離して!どうしてこんなことするの?」

叫んだ私の問いかけに答えは返ってこず、かわりに別の兵士が私の背後へ近づいたかと思うと、両腕をがっちりとつかまれてしまった。
そして、アニスを吹き飛ばした兵士の拳が私の腹部へとめり込む。

「うぐっ…!!」

「ヒトミ!!」

イオンの私を呼ぶ声が聞こえた気がしたが、耳鳴りがして外の音が入ってこない。
あまりの衝撃に視界も定まらず、うずくまってひたすら痛みを耐えた。

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