タルタロスとは、地上を走る大きな船のようなものだった。
戦艦…、ということだが、その名の通り中は殺伐としていて、沢山の兵士が艦内をうろうろとしている。
見張りだろうか?
その船の一室に通された私たちは、中央のテーブルに座らされて、ジェイドと名乗った青年の話を聞かされる。

「二日前に起きた第七音素の超振動はキムラスカ王国、王都方面から発生。マルクト帝国領土タタル渓谷付近にて収束。超振動を起こしたのがあなたたちならば、不正に国境を超えマルクト帝国領内に侵入したことになりますね。」

なんだかよくわかんないけど、渓谷ってのは私がこの世界に来たあの綺麗な場所だろう。
ティアたちもあの場所がどこなのか分からない風だったところを見ると、ジェイドさんが言っている不法侵入というのはあながち外れていないように思う。
それに私なんて、不正入国どころか不正入世界だよ。
語呂悪っ!

「ティアが神託の盾騎士団の人間だということは分かりました。ではルーク、それにヒトミ。あなたたちは?」

自分の台詞に突っ込みを入れていると、突然ジェイドに話しかけられて一瞬びくっとする。
この場合私はなんて自分を説明すればいいのだろうか。
なんというか、このジェイドさんには嘘はつかない方がいい気がする。
すぐばれそうだし、ばれた時がなんか怖い。
でも、本当の事をいってもあやしさを増すだけで余計に警戒されるのではないだろうか。

そうこう考えていると、真剣な顔をしたルークが私より先にジェイドへと進言し始めた。

「俺の名前はルーク・フォン・ファブレ。お前らが誘拐に失敗したルーク様だよ。」

ルークの顔は真剣と言うよりも思いっきり睨みつけているように見えるが、睨みつけられている自分物は完全にスルーだ。

「ファブレ…。キムラスカ王室と姻戚関係にあるファブレ公爵のご子息…というわけですか。」

公爵と聞いて考え込んだのはジェイドで、目を輝かせたのはアニスだった。
アニスは両手を右ほほに添えて、「ステキ!」を繰り返している。
私はと言うと、子爵とか伯爵じゃなくて、国王の妹は公爵にあたるのか。なんて事を考えていた。

「敵国の王室関係者と神託の盾騎士団の人間が共謀しての不法入国、いよいよただの物見遊山とは思えませんね。それで、あなたは?」

「ほぁ!!?わ、私ですか!!?」

まだ何て言おうか考えがまとまっていなかったので、素っ頓狂な声が出たのも仕方ないと思う。
だが、変な声が出たことに対して恥ずかしがる時間も貰えず、何者なのかと詰め寄られる。
つ、突っ込んでくれないと余計に恥ずかしいんだけど!

「てぃ、ティア、本当の事を話していいと思う?余計こんがらがって話がややこしくなったりしないかな?」

思わずジェイドから目をそらすと、ばちっとティアと目があった。
涙目で訴えると、彼女も複雑そうな顔をして「話すしかないと思うわ」と呟く。
でも絶対怪しまれるよー!!

そんな状況の私を助けてくれたのはイオンで、ジェイドの後ろで話を聞いていた彼は、スタスタと歩いて私の横へ立つ。
そして、ジェイドに向き直って私の代わりに話をし始めてくれた。

「ジェイド、ヒトミは決してマルクト帝国に害のある人物ではありません。僕が保証します。」

「イオン様とお知り合いなのは見ていて分かります。しかし、それとマルクトに無害なのとは話が別です。彼女が無害であるならば、あなたが彼女をかばわなくても素性を話すことができるのではないですか?」

もっともだ。
ウンウンうなずいていると、ルークに「どっちの味方だ」と小突かれた。
いや、もちろんそれはイオンにきまってるよ!
でも彼の言っていることはもっともで、信じてもらえようがもらえまいが、私自身にやましい事がないんだから堂々としていればいい話なんだよね。

「イオン、ありがとう。ジェイドさんの言っている通りだよ。」

間に入ってくれていたイオンに、私が直接話すよ、と伝えて横にずれてもらった。
心配そうに私を見ているが、もし信じてもらえなくてもその時はその時。
そうなってから考えることにしよう。

「イオンとの出会い編と単刀直入簡潔編と二種類ありますがどちらをご希望?」

「おや、面白い事を言いますね。…では簡潔編とやらでおねがいしましょうか。」

あまり時間がないですしね、と言いながらも余裕な笑みを浮かべている。

「えー、では。理由は分からないけど、いつの間にかオールドランとに迷い込んでしまった異世界人です。おわり!」

…。
一瞬場の空気が凍りついた気がするのはおそらく気のせいではないと思う。
ティアは額に手を当ててため息をつき、イオンは苦笑いをしていた。
ルークは「それじゃあ説明にならないんじゃないか」とわめいている。
ジェイドは…
右手の中指でメガネをクイッと上げたかと思うと、どこか右斜め下のほうをじっと見つめだした。

やっぱ簡潔すぎたかな・・・。

「はぁー。申し訳ないが、やはりイオン様との出会い編からお願いできますか。」


ジェイドさん、ため息でかいです。

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