ライガ戦

祠を抜けると同時に、獣の低くて大きな声が響いた。

そこに居たのは私たちの何倍もある大きな4本足の獣だった。
動物園で見た肉食動物などとは比にならない大きさの牙、ライオンよりも堅そうで長いたてがみ、大きく長い尻尾。
そこにいたすべての人間は絶句し、特に私とルークは凍りついたようにしばらく動けなかった。

「うわっ、なんかすでにひどく怒ってねーか?おい、チビスケ、なんて言ってんだ?」

イオンの肩に隠れていたミュウは恐る恐るルークの元へと移動する。
随時カタカタと震え、脅えた表情を浮かべながら、力を振り絞って言葉を発した。

「え、えっと、卵が孵化するところだから来るなと言ってるですの…」

「それはまずい!!卵が孵えれば生まれた仔たちは街を襲います!!」

ミュウの通訳を聞いて、イオンの顔色が急変する。
なんでもライガの子どもは人を好むらしい。街の近くに住むライガは繁殖期前に狩りつくさないと大変なことになるそうだ。

「うう、その前にまず、ボクたちを殺して子どもの餌にすると言ってるですの!!」

再び訪れる沈黙。
ライガから目がそらせず、そらせばすぐにでも襲われる。そんな恐怖が私たちを襲った。

「ミュウ、彼らにこの地らか立ち去るように交渉してみてくれませんか?」

イオンに言われ、小さなミュウは震えながらうなずいた。
それから私たちには分からない言葉でライガへと話しかける。
しかし交渉もむなしく、怒ったライガの雄たけびでミュウは吹き飛ばされてしまった。

そんなミュウをとっさに助けたルークは、ミュウからお礼を言われ赤くなる。
たまたまだ、と、言っているが、私の位置からは自分の意思で助けに行ったように見えた。
ま、ツンデレなルークだもん。
恥ずかしがってるだけなのは見なくても分かるけど。

そんな場の空気に似合わないほのぼのした光景は置いておいて。
これからどうしようかという空気が流れた時、ティアが武器を手に前へ躍り出た。

「交渉決裂のようね!導師イオン、ヒトミと一緒にお下がりください!」

戦うことに決めたティアに対し、ルークは困惑する。

「でも、ここで戦ったら卵が割れちまうんじゃ…」

「残酷なようだけど、孵化されたほうが困るの。そのほうが好都合よ」

冷たく言い放ったティアに二の句が継げないルーク。
それでも卵のことが気になっているようだったが、雄たけびとともに向かってきたライガに、ルークも剣を抜かざるを得なくなり、敵となった彼女に向って行った。




…。


夢の女性の言うとおりになってしまった。
ライガと交渉しに来たのに、戦闘を始めてしまったのだ。

剣と爪のぶつかる音、ティアの魔法がライガに向けられる。
すさまじい音が鳴り響き、殺し合う彼らの気が振動になって肌がビリビリと…まるで電流でも流れた用に震えた。

もしこのまま夢の通りになるのなら、ルーク達がライガを殺してしまのだろう。
そして小さな少女に深い傷ができてしまう。
彼女の気持ちを心で感じてしまった瞳は、ライガを殺してしまうことは絶対にさせてはいけないと、あんな憎しみをあんな小さな少女に背負わせるわけにはいかないと、強く

強く感じていた。

夢の女性は私に助けを求めた。
つまり、私にはなにかあるのかもしれない。この場を止める何かが。

「よし、」と意を決して岩陰から飛び出し、ライガとルーク達との間に割って入る。
遠くの方でイオンの呼ぶ声が聞こえたが、戦いをやめさせる事しか今の私の頭にはなく、戦う彼らに呼び掛けた。

「やめて!!戦いをやめて!!!」

いきなり目の前に飛び出てきた私に、ルークの剣が止まることができずに向かってくる。
が、ギリギリのところで動きを変えてくれたので、どうにか接触は免れた。

「お、おまえ!!何考えてるんだ!!」

「ヒトミ!!後ろ、ライガが!危ないから下がって!!」

そんな二人の言葉を無視してライガに向き直る。
恐ろしい形相で私を見下げる彼女は、警戒しているのか私から視線を外さずに低く唸っている。

「ライガ、お願い、戦いをやめて!!このままじゃ貴方は死んでしまう。そうしたら、あの少女が悲しむ!!」

少女、という単語に反応したのだろうか。一瞬ライガの瞳孔が開いた気がした。
が、すぐにまた唸り出し、身をかがめ…

攻撃される!

そう思った時、知らない男の人の声が聞こえてきた。

「やれやれ、見ていられないですね。助けて差し上げましょう」

声がする方を向くと長髪のメガネをかけた青年が立っていて、術を唱え始めているのが目に入った。
ライガも私から視線を外し、彼を見ている。

「インディグネーション!!」

青年が唱えると、上空で光の束が凄い勢いであつまり、一つの柱へと変化した。

これだ。

直感だった。これがライガを殺すのだと。
殺してはだめ、殺すのだけは絶対にさせてはいけない。

「だっだめ!!!」

言うと同時に駆け出してライガの体へとへばりついた。
自分の何倍もあるのだから、術から庇うように割って入ったって助けることなんてできないのは分かっていた。
だが動かずにはいられなかったんだ。

|
Index / IonTop
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -