始まりは突然で

その日私は、すごく落ち込んでいた。




高校から帰ってすぐに部屋着に着替え、納戸に隠してある親の買い置きのポテトチップスとオレンジジュースを拝借して部屋に戻る。
リビングから聞こえてきた「帰ってきてるのー?」という母の問いかけに、「今日夜ご飯いらない!」と返答をして勢いよく良部屋のドアを閉めた。
その辺に置いてあった鞄にポテチとジュースを詰め込んで、ベットの下に隠してある靴を取り出す。
それから、部屋の窓からひょいっと外に出た私は、家の屋根の上で靴を履いてから、庭にある木に飛び移った。
庭付き一戸建ての2階の隅に自分の部屋があり、窓から外へ出るとすぐに裏山へとつながっている。

昔から、落ち込んだときは山の頂上で空を見ていると不思議と気分が浮上した。
理由は分からないけれど。

今日もその恩恵にあずかろうというわけだ。

山はそんなに高いわけではないので4・5分も登ると開けた場所に出る。
そこは私の秘密の場所で、木々の割れ目に大きな石が横たわっていて、寝転ぶと空と木しかみえなくなる。
まるでこの世に私と空と木と、時折鳴いている鳥や虫しか存在していないかのような気分になり、俗世の汚いものに蓋をした感覚におちいるのだ。

「よっこいしょ!」

いつもの特等席に着き横になる。
空を見上げると陽は落ちかけて、東の方にうっすらと星が見えていた。

「明日。。。学校行きたくないなぁ」

目を閉じて自然を感じながら物思いにふける。
どのくらいそうしていたのか、次に目を開けたときには陽は完全に落ちて真ん丸な月と星が輝いていた。

「キレー!今日は満月だったのかな。月が真ん丸だ!」

そう口にした時、視界の隅で淡い光が走った。
びっくりして光の方に目をやると、どうやら人がいたみたいで。

(懐中電灯の光だったのかな…)

なんにせよ、誰かにこんなところを見られるのはちょっと厄介だ。
夜にこんなところで一人で夜空を見上げる女子高生なんてちょっと痛いし、親に内緒で出てきているので告げ口されても面倒だ。
今日は早いけど帰ろう。
と、起き上がって去ろうとしたのだが…

「あ、あの、すみません」

話しかけられてしまった。
(あちゃー、参ったな。)
そう思いながらも無視をするわけにはいかないので「はい、なんですか」と引きつった笑みを浮かべて返事をする。

相手は木の陰に居て、暗くてよく分からないが、どうやらこっちに近づいてきているようだ。
面倒くさいから早く話を聞いて帰ろう。
そう思って私も声の主に近づいて行った。

月の光に触れる場所に出てきた声の主を見て、私は固まってしまった。

「あの、お呼び止めして申し訳ありません。お聞きしたいことがあるのですが…」

丁寧な物腰で近づいてくる少年なのか少女なのか分からない人物が、なんとも言えない奇抜な格好をしていたからだ。
緑色の髪の毛に緑の目に白いタイツって。。。
こ、こんな山の中でコスプレか。。。?
いやいや、人の趣味をどうこう言っちゃ駄目よね!
人目をはばかってこんな場所であえてのコスプレ、うん。これだきっと!

「いいですよ。私で分かる範囲ならお答えしますけど」

そういうとコスプレイヤーさん(決め付け)はにっこりと笑った。
あ、ちょっと可愛いかも。

← |
Index / IonTop
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -