第一章 6

「・・・・と、言うわけで、瞳ちゃんは魔力増幅の力をもった、えー、いわゆるブースターってやつかな。」

長い長い話がやっと終わり、健ちゃんは紅茶を口に含んだ。
話している途中に、日本ではなかなかお目にすることができないであろう正統派メイドさんが2人部屋に入ってきて、優雅に紅茶を入れてくれたのだ。
私もありがたく頂戴したが、いつも飲んでいる紅茶のティーバッグとは比較にならないほど美味しかった。

さて、すでに頭はパンク寸前なので、今聞いたことを頭のなかで整理してみようと思う。

私の前の魂の持ち主は、健ちゃんの前世の大賢者の時代に、世界で唯一魔力を増幅させる特殊な力をもった一族のたった一人の生き残りだった。
しかし、魔力を増幅した眞王の力をもってしても創主の力を抑えるのがやっとだった。
眞王は創主を完全に消滅させるために画策したわけだが、その中のひとつに、創主を討ち果たすべく誕生させる魔王と共に私の魂を復活させるというものがあった。
で、いいのかな?

「えっと、つまり、私がいることで、魔王…えと、渋谷君の力が強くなる…ってこと?」

「うーん、ちょっと違うかな。鈴原さんの力を借りると、魔族全体の魔力が増大するらしいんだよね。例えば、魔族が人間の土地に行くと、魔力が弱まって本来の力が発揮できないんだけど、それが使えるようになっちゃったりするんだ。まったく魔力が使えない土地でも、鈴原さんと一緒に居れば普通に魔力が使えちゃうわけ。」

渋谷君が答えると、うんうん、とうなづきながら健ちゃんが続ける。

「本当は瞳ちゃんは眞魔国に生まれてくるはずだったんだ。それが、渋谷の近くにいたほうがいいだろうってことで地球に生まれることになったんだよ。本当ならもっと早くコチラに呼ぶはずだったんだけど…。眞王が危険な状態になってしまって、君を呼んで魔力が増える方が危険って状態でね。いや、まったく予想外の展開だったよ。」

「でも、その創主ってのを倒すための手段だったんでしょう?渋谷君の魔力を増やして創主を倒すために。でも倒したんでしょ?だったら今更私を呼んで魔力の増幅なんてしなくてもいいんじゃ・・・」

「いやぁ、それがそうもいかなくてねー。創主だけが魔族の敵ではないんだよ。今度は人間たちとの戦争が始まるんだ。でも、渋谷は戦争は極力したくないって考えの変わった魔王なわけ。そこで、平和的に問題を解決するために人間側の王様と交渉をするためには、こちらが優位に立っておく必要がある。いうなれば脅し?平和的に解決しなければお前たちを征服しちゃうぞー☆みたいな。」

「おい、村田。俺はそんな脅しみたいなことは好きじゃないし、そんなことしないっていったはずだよな!!」

「だからあくまで切り札だってさっきも説明しただろ渋谷。それに瞳ちゃんに説明するためにいっただけで実際は公にしないって言ったじゃないか。」

「鈴原さんを呼んだのは俺一人の魔力だと近隣の災害すべてを対処しきれないからだろ。魔力が増えるとやれることが増えるからだろ。切り札とかいうな!そんなことは絶対させないからな!」

渋谷君がすごい剣幕で健ちゃんに噛みついているが、言われてる本人はのほほんとしたものだ。
胸倉をつかまれながらも私の方を向いてにっこり笑っている。

「ね、渋谷って本当変わった王様なんだよ。まいっちゃうよねー」

健ちゃんの緊張感の無い説明に脱力しつつも、なんとなく状況が飲み込めてきた。
つまりだ。
敵がいようといまいと、私がこの眞魔国に呼ばれることは決定事項であったし、私の持っているというその魔力増幅的な能力をこの国の為に使わなければいけない訳ですね。

「じゃあ、その私の力ってやつをつかって、敵対している国との交渉が終われば私は家に帰れるのね?」

とにかく、そここそが重要なのである。
とりあえず私は日本に帰りたいのだ。

「もちろん。俺が責任をもって鈴原さんを日本へ送り届けるよ。実は、日本にはいつでも帰ることができるんだ。実際、俺もちゃんと日本に帰ってる。鈴原さんを今すぐ家に帰すこともできる。」

「え、じゃあ別に私の力ってのを使わなくても家に帰れるの?よくあるRPGみたいに敵を倒さないと家に帰れないとかそんな設定じゃなくて?」

「うん。詳しく話し出すと長くなるんだけど、ここと日本は時間の流れが違うんだ。眞魔国に長い間いてもあっちでは数分とたっていないから心配しないで。」

なんとまぁ、ご都合主義ですこと・・・

「だからさ、鈴原さんには極力迷惑をかけないようにするから、俺たちに協力してもらえないかな。この通り!お願いします!」

顔の前で両手をぱんっっとたたいた渋谷君は、深々と頭を下げた。
困惑しながら健ちゃんをみると、「かわいい幼馴染の頼みをきいてくれないっていうの!?」と明らかなウソ泣きをしている。

そんな健ちゃんにイラッときつつも、日本に帰れるという言葉を聞いて安心した。

(そうか、日本に帰れるのか。しかもこっちに来た時間に帰れるのか・・・)

フム。
と、口元に手を当てて、床を見ながら考える。

(だったら、しばらくこのとんでも世界を楽しんでみてもいいかもしれない。実はこういう中世ヨーロッパっぽい街並みって好きなのよね。見学とかできるのかしら。)

床から視線を上げると、この部屋にいる全員が私を見ていた。
私がなんて返事するのか待っているのだろう。
「はぁ・・・」っと一つため息をついた私は、両手を頬の横に上げて降参のポーズをした。

「わかった。わかりました。可愛い幼馴染とその友達の頼みだもの。私にでよければ協力してあげましょう!」

「まじで!?わ〜〜 鈴原さん!ありがとう!」

渋谷君がすっごく嬉しそうだし、まぁ…いいか。
なるようになれだ!

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