第一章 5

「さて、とりあえずどこから説明しようかな。みんなも瞳ちゃんのこと聞きたいだろうしね」

健ちゃんが私につままれた頬をさすりながら渋谷君を見た。
渋谷君はここにいるみんなの顔を見渡した後、健ちゃんとしばらく見つめ合ってから私に向き直った。

「えっと、まずはここがどこだか説明するところからだろうね。初めて会ったときに、俺は日本じゃないって言ったと思うんだけど。」

「あ、うん。そうよ、日本じゃないって言ってた!けど、健ちゃんもいるし渋谷君もいるじゃない。」

「えっと、正確には日本じゃないというか、地球じゃないんだ。ここ。」

渋谷君の言葉を聞いたあとの私の顔を、画像でお見せできないのがとても残念です。

「ちょ、瞳ちゃん、女の子がそんな顔しないの!」

「だって健ちゃん、言うに事欠いて地球じゃないなんて言ったのよこの子!じゃあここはどこなわけ?」

「うーんと、簡単に言っちゃえば異世界。かな」

なんかもう頭がガンガンしてきた。
そんなむちゃくちゃなお話があっていいのだろうか。
だって異世界だよ異世界。
そんな異世界って簡単にこれるものなの?
しかも渋谷君や健ちゃん、私入れて三人もいるんだよ?
そんな高確立でこれるものなの異世界って。

しかし、感情ではそう否定してても、

私が本屋の前からいきなり知らない場所に来た状況をどう説明する?
こんな大きなお城、日本ではありえないよね?
さっきの村は?
そもそも、さっきまで言葉も通じなかった上に、変な薬をのんで通じるようになったわけは?

なにより、私の幼馴染は腹黒で隠し事のおおいやつだけど、嘘はつかない子だって、私が一番よく知っている事だ。

「そして、今僕たちがいるこの国は眞魔国という魔族の国なんだ。」

なんかまたトンデモ設定出てきましたね?

「さらに、こちらに御座す渋谷君。彼はその眞魔国の王様、魔王様なんでーーーーす!」

「健ちゃん。」

「なぁに?瞳ちゃん。」

「私、健ちゃんはおとなしい顔して腹黒い、でも人に嘘は言わないいい子だって思ってたよ。」

「うん、僕も自分でそう思ってるよ?」

「でもそれはどう考えても無理設定じゃない!!!?ねぇ、ドッキリなんでしょ?これドッキリなんだよね?カメラどこー??そろそろ種あかししようかー!」

パンパンっと手を叩いて周りをキョロキョロしてみるが、カメラさんは一向に出てくる気配は無い。
そんな私を本当に同情するような目で見てくる村田健。
おい!その薄目やめろ!

「鈴原さん、タチの悪い冗談に聞こえるかもしれないけど、村田が今言ったことは本当のことなんだよ。」

私は言葉に詰まってしまった。
部屋の中が静まり返る。

すると、今まで私たちの会話を黙って聞いていた、黙っていれば美形男性こと鼻血の君が口を開いた。

「姫様、猊下がおっしゃったとおり、ここは眞魔国…正式名称、『偉大なる眞王とその民たる魔族に栄えあれ、ああ世界のすべては我等魔族から始まったのだということを忘れてはならない。創主たちをも打ち倒した力と叡智と勇気をもって魔族の繁栄は永遠なるものなり王国』」

「え、なにそれ国名?長すぎじゃない?」

「ユーリ陛下がおさめていらっしゃる、由緒正しき国なのです。」

キラキラという音が聞こえてくるような陶酔しきった顔で渋谷君を見る鼻血の君は、それはそれは美しかった。

夢かとも思ったが、もし夢なら初めに池に入ってた時点で起きそうな気もする(トイレ的な意味で)し、馬にのったせいでお尻がいまだに痛いのだから、夢の線はほぼなしで間違いないだろう。
さらにみんなの様子は嘘を付いているようには思えない。

だが、私にはこのトンデモ話を受け入れるほど柔軟な思考はもちわせていないのだった。
ああ、頭が痛い。

「分かった。分かったわかりました。百歩譲ってここが異世界なのはわかりました。受け入れがたいですが受け入れましょう。」

本当はまったく譲ってなんかいなかったけれど、ここで否定ばかりしていても埒があかないし先に進めない。
この際異世界とか魔王とか置いておいて、どうやってこの状況から抜け出して自分の家に帰れるかが問題だ。

「それで私はなんで異世界にくることになったのかな?ってゆーか、早く元の世界とやらに帰りたいんだけど」

「それがねぇ…話がながくなるんだけどねぇ」

そう言って健ちゃんは、いつになく真剣な顔をして話し出した。

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