第一章 4
「え、健ちゃんって!!?」
驚いた声を上げたのは渋谷君で、私も目を丸くして健ちゃんを見ている。
当の健ちゃんは全てお見通しという顔をしてにっこり笑っていた。
「村田と鈴原さんって知り合いだったの!?」
「知り合いっていうか…家が隣同士の幼馴染なんだけど…え、本当に健ちゃんなの?」
じっと健ちゃんを見つめると、いつものようにニッコリと笑う彼がいた。
やっぱりこれは私の知ってる村田健で間違いはないようだ。
「健ちゃん、これは一体どういうことなの…?」
「まぁまぁ瞳ちゃん、ちょっと落ち着いてね、今から順をおって説明するから。」
そう言って健ちゃんは、私の前に小瓶を差し出した。
ビンの中には黒い液体が入っていて、ちょっと鼻につく臭いを放っている。
「その前に瞳ちゃん、騙されたと思ってこれを飲んで欲しいんだ」
「えっ!?これを!!?」
「そう、これを。大丈夫、僕を信じて!」
いや、信じてって言われても…
なんだか得体のしれないこの液体を、健ちゃんを信じる。ただそれだけで飲めと言うのだろうか。
いや、だがしかし、いやいや、しかし、だがしかし!
「む、村田、この液体大丈夫なのか?なんかすごい色してるけど」
「人聞きの悪い言い方しないでくれるかい?渋谷。これは僕がアニシナさんに調合してもらった、「コトバガスラスラワカッチャウクン一号」だよ!」
「あ、アニシナさん作ぅ!!!?それって本当に大丈夫なのかよ!?」
「心配性だなぁ渋谷は。大丈夫だよ。僕が保証するから。さ、瞳ちゃんほら、いっき!いっき!」
いっき!じゃないよ!
二人の会話普通に聞こえてたっつーの!アニシナさんとやらの発明に、渋谷君も心配してるじゃない。
絶対大丈夫じゃないよね?
大丈夫じゃないでしょ!!!?
小瓶の蓋を開けたはいいものの、決心がつかずに、小瓶を両手でつかんだまま顔の前でフリーズしていた。
すると、健ちゃんのわざとらしい「あ、手が滑っちゃったーごめんねー」と言う声と共に、瓶をもった両手をグッと押され、口の中に小瓶の先が突き刺さる。
急いで口から離そうとしたけれど、完全に手が滑った域を超えている健ちゃんの右手が小瓶をつかみ、左手が私の頭を固定して、ごくっごくっと、無理矢理中身を飲ませられてしまった。
「ちょ、おいーーー!!村田お前なにやってんだ!」
渋谷君が必死に止めようとしてくれているのが視界の隅に写ったが、健ちゃんの手が緩むことはなかった。
私が全て飲み干したのを確認してやっとその手から開放される。
「げほっごほっ」
「瞳ちゃん大丈夫?」
「大丈夫なわけあるかぼけ!!!死ぬかと思ったわ!!!」
ぜーぜーと肩で息をしながら抗議したが、健ちゃんは相変わらずニコニコしているだけだった。
昔からこうだ。
おとなしそうに見えて、いい性格してるよまったく…。
「ところで瞳ちゃん、なんか変わったことはない?」
「はぁ?変わったことなんて…」
言いかけてハッとした。
「陛下、ひひひ、姫様は大丈夫なのでしょうか!猊下が何やら怪しい薬を口に押し込まれたように見えましたがっ」
「ああ、今のは完全に無理矢理飲ませたように見えたな。」
「ままま、まさかあのような小さな子供に、アニシナの作った薬を飲ませるなど、気は確かかっ」
「ユーリ、これは流石にお止めするべきだったんじゃないかな?」
「うわー、猊下えげつないですね・・・」
あ、あれ?
もしかして、しゃべってるのって、あの人たちかな?
あれ?いきなり日本語話し出した?
「どうなってるの?みんなの言葉がわかるんだけど…。」
そうつぶやいて彼らを見ると、彼らにも私の言葉が聞き取れたらしい。びっくりして私の方を見ている。
「ちょっと、健ちゃん、説明しなさいよ!!!」
無理矢理飲まされた恨みも込めて、健ちゃんのほっぺたを思いっきり引っ張った。
いでででで、と悲鳴を上げながらギブギブと涙目になっている。
私がされた事に比べたら安いものだろ?
と睨みつけながら手を話してやった。
「ひどいなぁ。僕は瞳ちゃんのためをおm「うるさい、いいから説明しなさい!」
言葉を遮って怒ると、シュンとうなだれて「わかりましたよー」とぼやいている。
けど、伊達に幼馴染はやっていない。
本当は本気で反省なんてしてないでしょうあなた!
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