第一章 3

超絶美形の鼻血噴射を目の前で目撃してしまった私は、あえなく気絶してしまったらしい。
といっても30分もせずに目を覚ましたということだから、気絶と言えるほどのものでもないのかもしれない。
いや、気を一瞬でも失えば気絶か?
そして、気付いたらソファーの上に横になっていた。
返り血からはグリ江さんが身を挺して守ってくれたらしい。
本当に素敵な女性だグリ江さんは!

起きたら先ほどの緑の髪の女性(ギーゼラさんと言うらしい)と渋谷君が隣に居てくれていて、今度こそお風呂へと案内してもらった。


ぽちゃり…

水音が部屋をこだまする。

渋谷君の用意してくれたお風呂は、さすがお城だけあってものすごい広さだ。
これ、私がよく行く銭湯の3倍位の広さはあるよ。確実に!

行儀が悪いが、すいすーいなんてお風呂の中を泳いでしまったのは仕方のないことだろう。
絶対、ここに入った庶民は一度はやるに違いない。

一通り泳いだあと、浴槽の中にある薄い椅子のようなところに腰掛けて、両腕をうーーーんと伸ばしてため息をついた。

「はー、なんかすごいことになってないかこれは」

まるで異世界にでも迷い込んだような感覚だ。
言葉が通じないのもあるけれど、この城に来る途中にいくつかの町を遠目に見てきた。
正直、あれは町と呼べるものではなく、むしろ村と言ったほうがしっくりくる。
城下町と呼ばれる場所にしても、お城にしても、まるで映画でみた中世ヨーロッパのようだ。

渋谷君はお城に着いたら説明すると言っていた。

彼は私が置かれた状況を理解しているようだし、私がここにいる理由も知っているようだ。
私がいくらこの状況について考えたところでわかるわけがないのだから、話を聞かないことには右にも左にもいけないことは明らかだ。

何度目か分からないため息をついて、私は湯船を後にした。


お風呂から出ると、タオルと一緒にお洋服が置いてあった。
白の肌触りのいいブラウスに、赤いふわふわのスカート。
シンプルなんだけどとっても可愛いその服に袖を通して、外にでると、ギーゼラさんが待っていてくれた。
待っててくれるならもう少し早く上がったのに!!
と思ったのだが、言葉が通じないので仕方がない。

『みなさんお待ちですよ、どうぞこちらへ』

なんだかよくわからないが、手を指してにっこり笑っているので、おそらく付いて来いということだろうと判断し、こっくり頷く。
ついて行った先には、他の扉よりも少し大きめの扉がある部屋の前で、ここにも兵士二人が扉の前に立っていた。
ギーゼラさんが何か言うと、兵士二人はおじぎをして私たちに場所を譲る。

扉を開けた先には、渋谷君、コンラートさんと、先程ひどい目に合わせていただいた鼻血の君。
それから初めて見る顔が三人。
金髪の可愛らしい顔をした人と、眉間の皺が深いダンディーなお兄さん、グリ江さんのように綺麗なオレンジ色の髪をしたお兄さんだ。

中に入ると、ギーゼラさんは一礼をして帰っていってしまった。
しまった。お礼を言い損ねた!
今度会ったらお礼を言おう!と心に決めて、渋谷君の方に歩いていく。

「鈴原さん、お湯加減どうだった?」

「うん、広くてびっくりしたけど、とってもいいお湯だったよ!ありがとうね。」

向かい合わせの4人がけの椅子に、渋谷君と金髪の子とダンディーなお兄さんが座った。
コンラートさんが私の手を引いて、残りの椅子へと導いてくれる。

「渋谷君、早速で悪いけど、私、今私が置かれてる状況がどうなっているのか知りたいの。」

教えてくれる?
と言うと、渋谷君はこっくりと頷いた。

「大丈夫、ちゃんと話すよ。ただ、もうちょっと待って欲しいんだ」

その言葉を聞いて、私はちょっとムっとした。
ここまで待たせておいて待って欲しいとはどういうことだろう。
やっぱり騙されたのだろうか、付いてくるべきではなかったのだろうかという考えが頭を過ぎる。

それはどうやら私の顔に出てしまっていたようで、渋谷君は慌てて首をふった。

「違うから!君を騙したりなんかは絶対にしてないんだ!ただ、鈴原さんは俺以外の人の言葉が分からないだろ?」

「うん。」

「だから今の状態で話をしても俺が通訳しないと話が進まないんだ。それで、君がこっちに呼ばれる時に村田が秘薬をとってくるから待っててくれって…その村田が帰ってこくるのをまってて欲しいんだけど…」

「あのさ、渋谷君、私はあたなが悪い人だとは思わないし思えないけど、その説明は限りなく怪しいって自分で気づいてないのかな?」

「いやぁ、うん、俺も自分で言ってて説得力ないなぁとは…」

「説得力以前の問題だよ!村田って誰よ!秘薬ってなに?怪しすぎだよっ!!」

言うと、渋谷君はだらんと顔と手を下げて凹んでいた。

「だよなぁ。でもさ、俺以外の人と言葉が通じないと、鈴原さんも身動きとれないだろ?」

まぁ、それは確かにそうだが、その秘薬とやらで言葉の問題がどうにかなるものなのだろうか?

ちらっと部屋の中に居る人たちの方に目を向けてみた。
私が声を荒らげているからだろうか。
コンラートさんはハラハラしているように見えるし、金髪の男の子とダンディーなお兄さんはずっとしかめっ面だ。

もうどうしたらいいのだろうかと涙目になりかけたとき、「おまたせーーーーーしっぶやくうううううん!」と、間の抜けた声が扉の方からしてきた。
その声の主は、扉をパーンと開けて華麗にスキップをしながら部屋へと入ってくる。

黒髪、学生服にメガネがキラリと輝くその少年は…。

「あ、あれ!?健ちゃん!!!?」

「やあ、瞳ちゃん!来るの遅くなってごめんねー!」

私の隣の家に住む、3つ下の幼馴染だった。

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