第一章 2
「渋谷君・・・コレがあなたの家なのですか?」
どのくらい馬で移動したのか、感覚的には1時間は軽く乗馬していた気がするが、時計を持っていないので正確な時間は分からない。
渋谷君曰く「俺の家」についたのは、私のお尻が限界を達する直前の頃だった。
「もうすぐ着くよ」という渋谷君の目の先にそびえていたのは、ドラ○ン○エストで見たことあるような大きなお城で。
西洋風のお城が目の前にあるだけでもものすごくびっくりしたのに、そこが家だというのだからもうなんてリアクションしたらいいのか分からない。
城の門をくぐるまではね、お城の後ろに住宅街があるんだよそうに違いない!
って自分に言い聞かせてたんだけど、さすがに門をくぐってしまえば認めざるを得ないわけで…
「そ、ここが俺の家。血盟城へようこそ!鈴原さん」
「ちょっと、渋谷くんあなた何者なの?」
「まぁ、そこはおいおい・・・ね。その説明の前にその濡れてる服をどうにかしないと。」
お城の入口の前には大きな扉と階段がそびえていて、その扉の両端に兵士らしき人が大きな槍をもって立っているのが見える。
おお、まさにファンタジーって感じだわ。
そう思いながら扉を見ていると、わずかな振動と共に後ろにいたグリ江さんの温もりがふっと消えた。
馬を降りたんだ。
それから私の横にきて『さあどうぞ』と、両手を広げる。
なんのジェスチャーなのかと少し考えたが、ああ、そうか私を馬から下ろそうとしているのだな、とすぐに気がついた。
おそらく腕の中にダイブしろってことだろう。
一時間近く密着していたせいか、私はグリ江さんに対して信頼というべき気持が芽生えていた。
したがって、なんのためらいもなく彼女の胸の中にダイブする。
思った以上にグリ江さんの腕の中は硬く、おお、もうどこもかしこも筋肉だらけだなぁなんて考えているうちに、地面へと着地した。
馬は兵士の人が厩まで連れていくということで、私たち四人はお城の中へはいろうと歩き出す。
すると、閉じていた門がばああああんっと音をたてて開いた。
中から薄紫色の綺麗な髪の、そしてなんと形容したらいいのか、言葉も見つからないほどの美形が同時に私たちの元へとかけてくる。
『陛下ぁあああああああああああ』
『わっ、ギュンター!と、後ろにいるのはギーゼラ?』
かけてきた美しい男性は、渋谷君の目の前で跪いて頭を垂れている。
その後ろには緑色の髪の若い女性がにっこり笑っておじぎをしていた。
おお、やっぱり外国でも女性はこうだよね?
みんなグリ江ちゃんのような筋肉じゃなかったんだ、とホッとしたのは内緒の話である。
『陛下、この方が例の御令嬢ですね!?』
『そ、鈴原瞳さんって言うんだって。あ、ねぇギュンター、彼女多分池に召喚されてずぶ濡れなんだよ。お風呂案内してあげてくれない?』
『はっ。かしこまりました。そういうこともあろうかと、ギーゼラに用意をさせておりました。』
渋谷君となにか話をした美形の男性が、私の方に向き直ってつかつかとやってくる。
しかし、近づいて来るたびに目がどんどん垂れ下がって鼻の下が伸びてる気がするのは気のせいだろうか?
なんかどんどん怖くなってしまった私は、とっさにグリ江さんの後ろに隠れてしまった。
『ちょ、お嬢っどうなさいました?』
あまりの怖さに、グリ江さんにぎゅっと抱きつく形で美形から逃げる私。
だって、あの人なんか鼻血でてない??
なんで鼻血出しながらにこやかにこっちにくるのー??
怖いよー!
『ギュンター閣下、鼻血出てます出てます!お嬢が怖がってるので拭いていただけませんか?』
『はっ。私としたことがっ。これは失礼いたしました。』
グリ江ちゃんが何かを言うと、今までゆるゆるで鼻血を出していた男性は、鼻血を拭いて、私の前に跪いた。
さっき渋谷君にしたみたいにだ。
『さ、姫さま、湯殿の準備が出来ておりますので、ささ、こちらへ』
なんだかよくわからないが、渋谷君も笑ってるし(実際苦笑いだが)
この人には危険はないだろうと判断して、グリ江さんの影からおずおずと出てると、ばちっと目があった。
先程の鼻血顔が嘘みたいに、神々しいほど綺麗な笑顔だ。
先程の光景はきっと見間違いだろうと笑顔を返したその瞬間・・・
その綺麗な顔の綺麗な鼻から、信じられない量の血がどばあああああああああっと出てきた。
いや、これはもう出てきたなんて言葉じゃない。
これは噴射と言うにふさわしい。
そんな勢いで鼻血が吹き出ている。
生まれてこの方人様の鼻血を見る機会なんてそうそう無かった上に、尋常じゃないほどの血の噴射を見た私が冷静でいられるはずも無く。
「いやああああああああああああああ!!!!!」
そんな大声を上げてしまっても、私を責める権利は誰にもないと思うの。
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