「どうしたらいいわけ…この状況・・・」

現実世界ではありえない配色。
木の葉は青く、木の幹は赤い。空には、今まで見たことのないほど綺麗な星々と2つの巨大なお月様。

どこぞのテーマパークにしてはよく出来すぎているし、何より、今まで病院に向かう途中の道路の真ん中にいたのだ。夢ではないのは、自分の頬を力いっぱいつねって確認済みだ。だが、だとしたらこの状況をどう説明すればいいのか。
しばらくの間、右手でこめかみを押さえ、木の根に腰かけて見慣れぬ景色を眺めながら呆けていた。が、このまま呆けていても仕方が無い。

「ここが何処だか分からないけど、こんな森の中でじっとしてても仕方ないよね。誰か話せるひとを…」

自分に言い聞かせるようにつぶやきながら、尻についた木の葉を掃って立ち上がった。
(とにかく歩こう…)
そう、一歩を踏み出した。森で遭難したのであれば行動は起こさずにじっと救助を待つのだろうが、そもそも森になんて入った覚えはないのだ。救助が来てくれる可能性はおそらくないだろう。
大きな不安を胸に抱きつつ、一歩、また一歩と足を進めた。
夜だというのに、月が煌々と輝いているおかげで、難なく歩くことができる。が、時折遠くの方で鳥の鳴き声が聞こえ、何とも言えない不気味さに足がすくむ。
(ううう、本当にここどこなんだようううう)
見渡す限り、木しか見えない。探せば虫くらいは居そうだが、探す勇気もなかった。
もし虫の姿が見たことのないような変な形をしていたらと思うと、怖くて見ることができない。いや、そもそも虫が得意じゃないので見たくもないのだが。

どのくらいの時間がたったのだろう。暗く深い色を帯びていた空が、ゆっくりと白く変わっていくのが視界にはいった。
体力には自信のある綾人だったが、歩きなれない、舗装されてない道なき道を歩き続けたせいか、足はとうに悲鳴を上げていた。

「だー!もう歩けないよ!この森本当に出口はあるの?抜けれるきがしないよ!!!少し休憩っっ」

文句を口にしながら、どさりとその場に座り込んだ。ゴテン、と、木の幹に背中を預け、ゆっくりと目を閉じる。地面に足を投げ出すと、血液が一気に流れ出したかのようにジンジンと脈打って、なんだか気持ちがいい。疲れはとっくにピークに達しており、つい、そのままついうとうとと眠ってしまった。

はっっと目が覚めた時には、隠れていた太陽が真上に高々と上がり、あたりは光にあふれていた。明るいというだけで、ここまで景色はかわるのか、と思うほどだ。
学校鞄の中に入っていた水の入ったペットボトルをとりだし、数回口に運ぶ。どれだけさ迷うことになるのか見当もつかないので、貴重な水分はできるだけ取っておくことにしていた。
さて、また歩くのを再開しようか、そう思い立ち上がったのだが・・・

「ん?なんか食べ物の匂いがする…」
 くんくんと鼻をならし、臭いのする方角を探す。なんとなく、こっちだろうと自分のカンを頼りに歩いていると、前方に煙が上がっているのが見えた。煙ということは、誰かが火をおこしたということで、つまりは人間がいるということだ。
(人に会える…家に帰れる!)
そう思うと、向かっていた足は自然と早足になり、駆け足になる。
目的地はそう遠くない場所にあり、数分もしないうちに開けた場所に出た。
そこには、木でできた小ぶりの家と、囲いのある小さな畑があり、さながら夏のキャンプ場などで見かけるペンションのようだ。違うのはその木の色が赤色というくらいで、おおよそ見慣れたものだった。煙はこの家の煙突からでており、窓が開いているところを見ると、臭いはここからただよっていたのだろう。

綾人は、手にしていた鞄をぎゅっと胸に抱きしめて、ゆっくりと家の入口へと続く階段をあがった。それから、扉の前に立つと、まずインターフォンを探した。だが、それらしきものは見当たらない。まぁ、こんな森の中だ。つける必要などなかったのだろう。
とあれば、家の人に挨拶をするときはノックをすればいいのだろうか。
ゴクリと喉をならし、緊張ぎみにドアを三度ノックした。

「す、すみません!誰かいらっしゃいませんか?」

すると、家の中から何か物を置くようなゴトンッという音と、「誰だ?」と訪ねる声がした。
(人だ!しかも日本語だ!)
言葉が通じない可能性もあっただけに、返ってきた言葉が日本語だったことに安堵する。

「あ、あの、俺、道に迷ってしまって、ここがどこなのか教えていただけないかと思って!」

その台詞に、「迷子?」と疑問の言葉を投げた後、家の住人の扉の方へと移動する足音が聞こえてきた。
そして、ガチャリとドアノブが回り、現れたのは・・・

これで家に帰ることができる、と住人を迎えた綾人の笑顔は、しかし次の瞬間に凍り付くことになる。
それというのも、扉から現れた者が予想をはるかに超えた姿をしていたからであった。

(どうしよう・・・この人、人間じゃない。)

そこにいたのは、綾人より頭二つ分ほど身長のある二足歩行の犬のような姿だったのだ。


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