出された料理はとても美味しそうだった。スープとパンとサラダというシンプルな食事。よくあるメニューだが、やはり配色が綾人の知るものとは違っている。サラダは葉が赤いし、スープに入っている野菜も、紫だったり青だったりとカラフルだ。

「いただきます」

と、手を合わせて、まずはスープを手に取った。野菜と思われる具がゴロゴロ入っており、スープじたいはクリーム色をしている。香りはコンソメに近い気がするが、見た目は日本のシチューのようだ。
クンクンをにおいをかいでいたら、空腹のお腹がキュウウーーーっとなった。本日何度目かの腹の虫である。
用意されていたスプーンですくって一口含んだら、ものすごくおいしくて、直接器に口をつけて、ごくごくと飲んだ。ぷはっと口を離して、唇についたスープをペロッとなめとる。それから、器に残った野菜をスプーンですくってぱくっっと食べた。紫色の野菜は、食感も味もじゃがいものようで、不思議な感じがする。
さて、次はパンをいただこうかなーとテーブルの方を見ると、食事に手を付けずにじっと綾人を見ているウィジットに気が付いた。
(あ、あれ・・・おれ何かしちゃったかな?)
不安になって、訝しげに見返すと、「幸せそうに食べるな。味の方はどうかな。」と問われた。

「あ、はい、とってもおいしいです!」

にっこりと笑顔で答えると、答えに満足したのだろう、ウィジットもにっこりと笑って食事を始めた。




ある程度食べたところで、ウィジットが食事の手を止めて、さっきも質問したけど、と話を始めた。

「アヤトはどこから来たんだ?この辺りは街からも街道からも離れているから、めったなことでは人族も獣族も寄り付かない。街道の方角で迷子ならわかるけど、この辺りで迷子は珍しい。」

ウィジットの質問に、どう答えたらいいか迷った。
迷った理由は二つ。
一つは、自分自身でも今の状況をきちんと把握できてないということ。もう一つは、ウィジットに異世界から来たのかもしれないという事を話しても良いかどうか。ということだ。

「あの、その質問に答える前に、一つうかがってもいいですか?」

持っていたスプーンをテーブルに伏せて、ウィジットを見る。
彼は軽くうなずいた。

「あの、先ほど人族、獣族と言われましたけど、えっと、ウィジットさんは獣族でしょうか。俺は人族?」

先ほどから気になっていた単語について質問をした。自分は異世界に来てしまったのだと、おそらくそう思う。でも心のどこかではまだ信じたくなかったんだ。
突然森にいたこと、常識では考えられないウィジットの姿。それだけでも異世界にいるという事実にふさわしい状況だったが、もし、もしこの獣族というのがなにか設定のようなものだったなら・・・。たとえば記憶喪失かなにかで、病院途中からの記憶がないだけでここがテーマパークなだけだったら。
そんな期待がこの質問には込められていた。

綾人のした質問に、ウィジットは一瞬目を見開いたようだった。だが、一瞬すぎて、本当に見開いたのかはわからない。そして、質問に対する答えは、

「その質問は、先ほど君が言っていた、「違う世界」という言葉と関係があるのか。」

というものだった。
なぜそのことを!?と思ったが、確かに先ほどパニックを起こした時に、そんなことを口に出して言った気がする。

「俺たちの住んでいるこの星、ガイアというが、このガイアには2種の知的生命体がいる。それが、我々獣族と呼ばれる一族。それから君のような人と呼ばれる人族だ。獣族だけの村はあるし、人族だけの村もある。だが、ほとんどは混じり合ってくらしているな。俺は今まで、10の街を回ってきたが、獣族と人族の事を知らない者に出会ったことがない。もう一度聞こう。アヤト、君はどこから来たんだ?」

ウィジットの言葉をきいて、肩を落とす。
やっぱり自分は異世界に来てしまったのだと確信してしまった。どうやら地球ではない、ガイアという星にきてしまったようだ。
(俺はこの質問になんて答えたらいいのだろう。)
シュンとうなだれる綾人を、ウィジットはじっと見つめていた。綾人からの返事を、根気強く待ってくれているのだ。
本当なら、こんなばかげた話するものじゃないのは分かってる。頭のおかしい子どもだと思われるのが落ちだろう。だが、こんな状況で一人になる勇気は綾人にはなかった。助けてくれる人がほしかった。導いてくれる人がほしかった。自分の世界に帰りたかった。
見ず知らずの人にやさしい言葉をかけてくれた、このウィジットという人を信じてみよう。話したら助けてくれるかもしれない。

そう思った綾人は、ぎゅっと目をつぶり、勇気をだして自分に起こったことを話すことにした。

「あ、あの、自分でも自分の置かれた状況を把握できてないんです。信じてもらえないかもしれませんが・・・実は・・・」


prev next
back
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -