犬のようだというと語弊があるかもしれない。飼い犬に服を着せて後ろ足で立ったような姿ではない。骨格はおそらく人間とそう変わらないだろうと思う。
だた、まず頭にピンとたった耳が生えているのだ。顔も人間とゴールデンレトリバーを合わせたような形をしている。肌と呼ばれる場所にもうっすらと毛があり、腰の後ろにはふさふさと揺れる立派なしっぽがあった。

「こんなところで迷子とは珍しい。この辺りは人族も獣族も近寄らないんだが、君はどうやってここまできたんだ?」

その問いに、答えることができなかった。いや、できなかったというよりも聞いていなかったという方が正しいか。今だかつてないほど頭をフル回転させ、自分の置かれている状況を整理していたからだ。そして、いろいろな仮定を想像してみたが、導き出される答えは一つだった。

「実はそうじゃないかって思ってた。わかってたんだよ薄らと!俺、もしかしなくてもやっぱり違う世界ってやつにきてるよね!!?ここ、日本じゃありませんよね!!!?」

持っていた鞄をボトリと床に落とし、両手で頭を抱えてしゃがみこむ。
ふ、と視線を上げると、住人の足が見えた。
ふわふわの毛皮で覆われたそれは、やはりどう見ても人類には見えない。

(同室のやつに見せてもらったオンラインゲームにこんな姿をしたキャラクターいた!!!あんまゲームしないからわからないけど、二次元キャラにいる!!こういう人いる!!!)

しゃがみこんで固まってしまっている綾人を見てどう思ったのか、しばらくたった後、彼(おそらく男性だろう)は、ポンッと綾人の肩をたたいた。

「事情はよくわからないが、ここに居ても仕方ないだろう。家に入らないか?ちょうど昼食ができたところだったんだ。」

そして、しゃがみこんでしまった綾人の肩をだいて立ち上がらせてくれ、そのまま家の中へと招待してくれた。
その時は気づかなかったが、床に落としてしまっていた鞄も拾ってくれていたようだった。則されるままにテーブルへと座ると、机の上にコトリとマグカップが置かれた。薄茶色のそれからは、お茶のような香りがする。

「のど乾いてないか?口に合うかわからないが、良かったらどうぞ」

彼の顔をちらりと盗み見ると、自分用に注いだ飲み物をもって向かい側に座り、マグカップに口をつけてこくりと飲んだ。それを見て、同じように一口含む。

「あ、美味しい…」

それは匂いのままお茶だった。自分の知る味だと、温かい烏龍茶に似ている。

「それはよかった。さて、なにかとても混乱しているようだったが、もう大丈夫か?」

「あ、はい、すみません。いきなり訪ねた上にこんな…ご迷惑をおかけしました。」

持っていたマグカップをテーブルに置いて、ぺこりと頭を下げる。すると、ハハッと言う笑い声と、気にしなくていいよという言葉をもらった。

「俺の名前はウィジット。ウィジット=ラ=ドルク=アウストという。ウィジットでかまわない。君の名前を聞いても?」

「あ、はい、えと、俺は綾人、吉川綾人です。俺も綾人でかまいません。」

「それじゃあ、アヤト、君はお腹すいてないか?俺は今から昼食なんだけど、よかったら一緒にどうかな?」

唐突に昼食のお誘いをいただいた綾人は、驚きで目を丸くした。見ず知らずの怪しげな(ここでいう俺の事だが…)人物を家に招き入れるだけでなく、食事まで提供しようとしてくれる意図がつかめない。

「え、で、でもこれ以上ご迷惑をおかけするわけには・・・あっ」

遠慮の言葉を言おうとして、先ほどのウィジットの言葉を思い出した。
そういえば彼は先ほど、昼食ができたところだと言っていた。食事時に邪魔してしまって、彼にそう言わざるを得ない状況にしてしまったのだと気づいたのだ。一瞬不信感を抱いてしまった自分に自己嫌悪し、同時にこのウィジットという彼は善良な方だと思った。
反省した綾人は、彼の食事の邪魔をしないようお暇しようと立ち上がろうとする。すると、ウィジットがそれを片手で制した。

「迷惑ではないと、先ほども言ったとおもう。むしろ、いつも一人で昼食をとっているから寂しく思ってたほどだよ。たまには誰かと食べたい時もある。それに、どうやら君は困っているようだ。俺でよければ相談にのるけど、どうだろう。」

いや、そういってもらっても流石に・・・
そう思ったのもつかの間、綾人のお腹がキュルルルル、と何とも間抜けな音が鳴った。
思わずお腹を抱え込むと、ウィジットはにっこりと笑って「決まりだなっ」と、立ち上がる。
綾人はというと、顔から火が出るほど恥ずかしくて、俯きながら「ありがとうございます」とお礼を言うのだった。


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