放課後、一度寮に帰った俺、斉藤亮太は、宿題を学校に忘れてきた事に気がついて急いで教室へ向かっていた。
陽はかなり傾いていて、グラウンドには運動部だろう、掃除をしている人がポツポツと居るだけだ。
文化部はとっくに帰宅をしていて、廊下や教室はシーンと静まり返っている。

「ううう、ちょっとかなり怖い・・・」

でも明日は日付的にあたる日なので、宿題をしていかないわけにはいかない。
頑張って教室までいくんだとビクビクしながら足を勧めた。

お目当ての教室見つけた俺は、そろそろっと扉をスライドする。
すると、誰もいないはずの教室の教卓に、誰かが座っているのが目に入った。
一瞬幽霊かとびくついた俺だったが、よく見ると同じクラスの市川満だった。

「ちょ、脅かすなよ市川ぁ!こんな時間にこんなところでなにしてんの?」

中途半端にひらいた扉を勢いよくガラガラッと音をたててあけると、俺に気づいていなかった市川が「うわっ」と声を上げて驚いた。
ご、ごめん、もっとゆっくり入ればよかったな。

「て、なんだ。斉藤じゃん。自分こそ何やってんの?一人でこんな時間に。怖がりって有名じゃなかったっけ。」

「へっ!?なんで市川が俺が怖いのだめだって知ってんだよ!てゆーか有名ってなんだよ!」

「この学校で斉藤が怖がりなの知らないやついないんじゃないか?去年の文化s・・・「うあわああああああ!お、おれ、宿題忘れてとりにきたんだった!!」

市川の台詞をわざとらしくさえぎって、窓側にある自分の机へと歩いていく。

去年の文化祭。それは俺にとって忘れたい過去であり、黒歴史中の黒歴史だった。
文化祭の出し物の一つであるお化け屋敷事件がその忘れたい過去だ。
友達に無理やり連れて行かされたのだが、あまりの怖さに叫んでセットを壊すだけならまだ知らず、最終的に扉にぶつかって脳震盪をおこし、その日一日保健室のベッドの上で過ごすことになったのだ。
気が付いた時には楽しみにしていた文化祭は終わっていて、俺の笑える武勇伝だけが残った。

あああ…。
市川は去年クラスも違ったから知らないと思っていたのに、そんなに知れ渡っているだなんて・・・
やめてくれ!
俺をどこかに埋めてくれ〜〜〜!

赤くなっているだろう顔を見られないために、俯いて市川の前を通り過ぎる。
机の中からお目当ての教科書とノートを取り出してちらっと市川を見ると、俺のことなんて全く気にしておらず、教卓から薄暗くなった窓の外をじっと見ていた。

「せめて電気くらい付ければいいのに。」

「いや、うん。そろそろ帰ろうと思ってたところだし…いいや。」

そう言って机からすたっと降りた彼は、自分の机の横に掛けてあったカバンを手に取ると、教室から出て行ってしまった。

なんだったんだろう?

まぁでも、俺も用を済ませたし帰ろう。
そう思って教室の扉をくぐると、壁に寄り掛かって市川がこっちを見ていた。

「わ!だから脅かすなって!…な、なに?」

「いや、なんかもう暗いし。寮に帰るんだろ?ついでに斉藤送っていこうかと思って」

「え、なんで?」

「嫌ならいいんだけど。この暗い夜道のなか一人で帰りなよ」

「うそうそ!嘘です市川様!是非寮まで一緒に行ってください!!」

「現金なやつ・・・」

くしゃりと顔をゆがませた市川は、ほら行くぞーと廊下を先に歩いていく。
小走りで追いかけて、市川の隣に並ぶと、彼はゆっくり、俺の歩調に合わせて速度を緩めた。

送っていくとか普通に言われたけど、実は俺たち、そんなに仲がいいわけじゃない。
同じクラスだけどそんなに話さない方だ。
俺は寮組のやつらとつるんでるし、市川は部活組のやつらと一緒にいるのをよく見かける。
どういうつもりなんだろうと市川を盗み見たが、彼はやっぱり窓の外を見ていて…
よくわからない。
普段話すことなんかないから、一緒に歩いてても会話は皆無だし。

(まぁいいか。一人でこんな暗い中を歩くよりはましだしな。)

そう思って歩いていると、市川が話しかけてきた。

「なあ、斉藤ってさ、好きなやついる?」

「はぁ?」

何かと思えば、そんな内容だった。
俺たち、好きな子を語り合うほど仲じゃないよな?

「いきなりなんなの?」

「いやー、いるならそれはどんな気持ちなのかと思って」

さっぱり意味が分からない。

「市川はいないの?好きな人」

「俺は…うーん。よくわからない。」

それはどういう意味のよくわからないなのだろうか。
好きな人はいるけどそれが本当に好きなのかわからない?
それとも、そもそも好きな人というのがわからない?

「俺は今はいないかな。居たらたぶん今日ついてきてもらってるよね。絶好のチャンスじゃない?暗い学校で二人きり。吊り橋効果期待できるし。」

「は?なにそれ。」

「いやいや、これで気持ちが図れるんでない?ついてきてくれたら・・・ちょっと希望あるかもって。恋の駆け引きというやつだよ!」

別に本気で言ってるわけではなくネタなのだが、市川は「めんどくせぇ…」って本気にしてる。
意外に可愛い奴だな。

思わず笑ってしまうと、顔を真っ赤にして「何がおかしいんだよ」って聞いてくるから、さらにおかしい。
市川てこういう人だったんだ。
知らなかった。

「ごめんごめん、冗談を本気にしてるから面白くって。」

「じょ、冗談って…嘘だったのかよ!!」

「半分ね。」

好きな相手が女なら、俺の宿題をとるためにわざわざ男子校に潜りこませるなんてまねさせられないだろ。
するとこの場合、好きな相手ってのが男ってことになる。
ナチュラルに男を恋愛対象にして話をするあたり、俺も市川もこの学園に馴染んでる証拠だよなぁなんて思うわけだ。
実際、俺の回りには結構いるんだよなー、付き合ってるやつ。

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