その日一日、結局俺と優はギクシャクしたままで会話という会話はしなかった。
しなかった…というより、できなかった。
あからさまに落ち込んでいる優を見たら、なんだか声をかけづらくて、話しかけるタイミングを見つけ切れないまま放課後になってしまったのだ。
このままギクシャクしたままなんて嫌だけど、でも正直何を言っていいのか分からない。
朝の態度を謝って、それで?
昨日の返事なんて、まだ自分の気持ちの整理もできてないのに言えるわけがない。


HRが終わり、教室を出て行く優を見て、俺はあわてて鞄を手に取った。
教室をでると、優が廊下の角を曲がるのが目に入る。
このままでは見失ってしまうと焦って、走って追いかけた。
角にさしあたり、曲がろうとした瞬間、角の向こう側から黄色い声が聞こえてきた。

「きゃー!さすが優。もう大好き〜〜〜」

とっさに曲がるのをやめて、壁にへばりつく。
壁からそろりと優を盗み見ると、俺より少し小さい感じの可愛い系の男と話をしていた。
男子校にあんなのが居たら、まず襲ってくださいと言わんばかりの可愛さだ。
ころころと表情が変わって、構わずには居られなくなるような…

(見たことないな。あいつ誰だ?)

なんだか胸が締め付けられるような気がした。
朝、花梨の時に感じたもやもやに似ているが、それよりもさらに胸の奥がツキンと痛む。

昔からずっと一緒だった俺らは、お互い知らない友達なんて居なかった。
俺の友達は優と友達だったし、優の友達は俺と友達だった。
俺には優の知らない友達なんか居ないのに…優には俺の知らない友達が居たんだ…
しかもあんなに仲よさげに。

(なんでそんなに嬉しそうなんだよ・・・)

これ以上この光景を見たくなくて帰ろうと踵をかえしたその時、男が優に抱きつくのが目に入った。
その瞬間に、昨日の花梨に言われた台詞が頭をよぎる。


『優ちゃん、誰かにとられた後で泣いてもしらないからねっ』


ドクン

鼓動が速度を上げ、気が付けば、壁から離れて優の元へと走っていた。
優にしがみついている男の腕を振りほどいて、二人の間へと割り込む。

「さ、悟…?」

二人はそろって驚いた顔をしていたが、俺は構いもせずに優の手を引っ張ってその場を駆け出した。
男が俺に向けてなにか言っていたようだったし、優も必死に俺の名前を呼んでいたが、すべてを無視して無言で駆けた。

「悟、どうしたんだよ。なにかあった?」

心配そうに俺を呼ぶ声がする。
どうしたなんて、俺が聞きたい。
俺はどうしたんだろう。なにがしたいんだろう。

無我夢中で走った先は、クラス棟校舎の屋上だった。
俺たちの学校は、クラス棟と部活棟の二つの校舎があり、クラス棟は教室、部活棟に特別教室が設けられている。
放課後になると、部活があるやつらはみんな部活棟に移るので、クラス棟にはほとんど人が残らない。
クラス棟の1階の職員室、もしくは補修で残らされているような生徒くらいなものだ。

放課後の屋上はガランとしていて、校庭から部活生の掛け声が聞こえてくる。
日は落ちかけ、太陽のオレンジと空の青とが交じり合いって鮮やかなコントラストを描いていた。

フェンスに優を押し付けて、うつむいている俺に優しく声をかけてくれる優。
なにか返事をしなければならないが、自分の行動にも戸惑っている状態では何を話していいか分からない。
必死に、なぜ俺は優をこんなところまで引っ張ってきてしまったのか。昨日の返事をどうするのか。今日の朝のことはどうやって謝ろうか。
考えてるのにどうすればいいのか分からなくて途方にくれていた。

(なんかもう、泣きたい…)

しばらくだまってそんな俺を見ていた優だったが、いいかげん痺れがきたのだろうか。
優を押し付けている俺の手をゆっくりとはずして、すこししゃがんで顔を覗き込んできた。
やさしく俺の名前を呼びながら、どうしたの?って。

優は昔からそうだ。
 
やさしくて、俺の嫌がることなんて絶対しなくて。
俺を一番に考えてくれて…
 
俺を…。


「お、俺、朝のこと謝りたくて。昨日のことも、返事しなくちゃって、だから優をおっかけて、そしたらっ、俺の知らないやつと仲良く話してるし。だから・・・」

だから?
…だからってなんで俺優を引っ張ってきちゃったんだろう。
 
だって、だってなんかイヤだったんだ。
優は俺が好きだって言ったのに、俺の優なのに。
俺の方が仲がいいのに、とられちゃうかと思った。

それって、もしかして俺、俺も優のこと…。


「悟、ごめんね。そんなに悲しい顔をさせるために告白したわけじゃなかったんだ。ただ、俺の気持ちを知って欲しかっただけだったんだけど…。苦しめちゃったね、ごめん。」

そう言って俺の頭をポンポンッとたたくと、悲しそうににっこりと笑った。
その笑顔がすごく切なくて、泣きそうだった俺は、いつのまにか本当に涙をながしていた。

「さ、さと…「ごめんは俺の方だよ!」

優の言葉をさえぎって、優に抱きついた。
最初に告白された時点で、本当は気づいてたんだと思う。
俺も優がそうゆう意味でスキってこと。
幼馴染だし、男同士だし、どこかで違うって思いたかっただけなんだ。
でも気持ちは俺の知らないところでどんどん広がって、妹に嫉妬するは見ず知らずな人に嫉妬するわ。
俺って本当嫌なヤツ。

「優にそんな顔させるなんてサイテーだよ俺。俺、俺も優と同じ意味で優が好きだ。」

恥ずかしくて、優に抱きついていることをいいことに胸に顔をうずめてみられないようにした。
今顔を見られると、きっと恥ずかしくて死ねる。

「さっき、知らないヤツが抱きついてて思ったんだ。誰にもとられたくないって。だって優は俺んだもん。優が他のヤツと一緒にいるなんて絶対イヤだって思ったんだ。」

言い切って、しばらくしても優からは何も返事がない。
もしかして呆れられたかもしれない。そう思って顔を上げた瞬間、胸が急にくるしくなった。
優の両手が俺の背中に絡みついてぎゅうぎゅと締め付けてくる。
肩にはいつの間にか顔が押し付けられて、髪が頬に当たってこそばゆかった。

「優…」

「嬉しい、両思いなんて、夢みたいだ。」

そっと俺を放した優は、やさしいキスをくれた。
ちょっと照れくさかったけど、全然イヤじゃなかった。
むしろ嬉しいとさえ思った。

なんだ、やっぱり俺、自分で思っている以上に優のことが好きだったんだな。
そうして、そのまま優の首へと手を回すのだった。

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