「なんで好きな人いる?とか聞くわけ?市川はわからないんだろ?好きな人」

聞くと、市川はまた窓の外に目線を向けた。

「俺な、今日は顧問の用事で部活休みだから、友達と野球見にいくはずだったんだ。」

歩く足を止めて窓の外を見ながら語り出した市川より、少し先で歩みをとめた俺は振り返る。

「けど、その友達、隣の女学校に彼女ができたから行けないって言って、約束すっぽかされたんだよなー」

笑顔を作って俺をみたけど、その笑顔がちゃんと笑えてなくて、悲しそうな顔になっていた。

「最近そういうこと多くって、別に友達を彼女に取られたとか思ってるわけじゃないんだ。でも、前からの約束をやぶってまで優先させるのってどうなのかなって。俺がまだ好きな人できたことないから、その気持ちが分からないだけなのかなって思ってさ。」

(な、な、な!なんだこの可愛い生き物!!!)

おそらく悲しくなった顔を俺に見られたくないのだろう、市川は、俯いてゆっくりと俺の横を通り過ぎる。
俺はというと、そんな市川の台詞や行動があまりにも可愛くて硬直していた。

(友達に彼女優先されて拗ねてたってこと!!?ひとり夕焼け眺めるくらいに凹んでたってこと!!?か、可愛すぎだろーー!!!)

しばらく固まったのち、たまらず両手で顔を覆ってしゃがみ込んだ。
心のなかで、可愛い可愛いとじたばたする。

俺がついてこないことに気づいた市川が振り向いたのだが、しゃがみこんでる俺にびっくりして、「お、おれなんか変なこと言った?」と、動揺して話しかけてきた。
それもまた可愛い。
こんなにかわいいヤツが、俺の好みドストライクなやつが同じクラスに存在していたのを今まで知らなかったなんて俺のバカ!
俺の馬鹿!!(大切なことなので2回言いました)

立ち上がった俺は、パンっっと一回自分の両頬をたたいて市川に向き直る。
不思議そうな表情を浮かべていたが、無視して話をつづけた。

「あー、別に好きな子彼氏彼女関係ないんじゃないかな?約束守る守らないはその人の気持ちだろ?市川が許してくれるからつい彼女を優先させてしまっているだけだと思う俺は。一回友達にガツンと言ってやりなよ。次やったら絶交だからなって!」

そうなのかな〜と腑に落ちない顔をしている市川を残し、俺は歩き出した。
すると、立ち止まっていた彼もゆっくりと俺の後に続いて歩き出す。

「そんなに気になるならさ、誰かと付き合ってみれば?」

「はぁ!!?俺が!!?無理無理!」

「なんで無理?市川結構モテんじゃん。姉妹校の女学校のやつもお前見にわざわざ陸上部のグラウンド来てるやつもいるらしいし。すぐできるって!」

「えっ!うそ!?俺そうなの?」

嘘なもんかい。
180pという身長。陸上部のエース。イケメンに明るい笑顔。
しかも・・・
性格こんなにかわいいんじゃモテないほうがおかしいだろ。
同じクラスのやつも、恋愛対象としてかは分からないが、好きだと言っていたのを聞いたことがある。

俺も…いままではあまり話したことがなかったから何も感じなかったが、この数分確実に落とされました。可愛いよお前かわいいよ!

「でも俺、好きとか分からないのに・・・。こんな気持ちで付き合ったら相手に申し訳ないと思うんだけど」

「ふぅん…じゃぁさ、試しに俺と付き合ってみる?」

「・・・へぇ!!?」

一瞬何を言われたのかわからないという顔をした彼は、その後変な声をだして驚いた。
展開的に察してもよさそうなのに、市川て鈍いんだなー。

「俺、市川の事、結構好きだし、試しに付き合ってみないか。理由知ってるし悪いって思わなくていいんじゃない?」

「え、え、斉藤って、俺の事…そうだったの!!?」

正確にはつい先ほどそう思うようになったのだが、これは黙っていた方がいいよな、と、とりあえずにっこり笑っておいた。
その笑顔を肯定ととらえたのだろう。
彼の顔はみるみるうちに赤く染まっていき、耳まで真っ赤になっている。
視線が定まらず、足元を見たり天井を見たりしているのはなんて答えるかを考えてるということだろう。
くそ、すぐ赤くなるところも可愛いなっ。

「で、どうする?付き合ってみる?それとも辞めとく?」

コツリと彼に近づいて、ギリギリまで顔を寄せて瞳を覗き込んだ。
ばちっと目線が合う。
市川は、そらすことができなかったのだろうしばらく見つめあっていたが、うつむくことで視線を外されてしまった。

これは振られちゃうかなー俺。

そう思って踵を返し、再び廊下を歩きだそうとしたとき、市川がぼそりと何かを呟いた。
聞きとれずに振り返る。

「じゃ、じゃあ、よろしく…お願いします。」

へ?
彼が何を言った台詞が信じられなくて、目を丸くしてしまった。
いまよろしくお願いしますって言った?
聞き間違いじゃないよな?

「なんだよ、やっぱり俺じゃ嫌とか言う?」

「ち、違う違う、まさかOKされるとは…思わなかったから」

数秒間の沈黙の後、フフッと声を出して笑ってしまったのは俺だった。

「じゃあ、これからよろしくな、市川」

笑いながら答えると、苦笑いした彼も、頭を軽く掻きならが「よろしく」とつぶやいた。



END

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