たびにっき - 11

えーと…ずいぶん場所が飛ぶんだけど。
僕は今、砂漠に来ている。つい一時間ほど前には、もう少し涼しいところにいたはずなんだけど。
なんでも、ピラミッドツアーなんてものがこれからあるらしくて。要するに、イシスが新しく始めた観光事業らしい。城下町を出発して、ピラミッドまでを往復する。ただまあそれなりに距離があるから日帰りというわけにはいかなくて、片道二日ずつかかる行程とのことだった。そのために道中の砂漠を整備して、途中には休める小屋も建てたんだって。
びっくりしたのは、一般の人たちもピラミッドの中に入ることができるみたいで…なんでも、イシスの有志でピラミッドのからくりなんかを解いて、安全に出入りできるようにしたとかなんとか。下で眠ってる昔の王様たちが一体どんな顔をするのかはわからないけど、女王様が認めたことらしいし、三人がわくわくしているのを見ると僕も「まあいいか」なんて思ってしまう。

容赦なく照りつける太陽に、ちょっと頭がクラクラしてくる。今が冬だとか、ここにはまるで関係がないようだ。おまけに軽めのものを選んだとはいえ、着ているのは冬の服。あっという間に汗が滲んでいく。
元気な三人に引っ張られて、一緒にルーラで運ばれて。僕も成り行きでツアーに参加することになってしまった。さすがに嫌とは言えなかった。せっかくの機会だし…それに、ピラミッドには行きたいなと思っていたから。
僕はこっそり、気付かれないように奥の手を使う。
「…ヒャド!」
ひんやりとした氷の塊を、額に持っていく。ああ、気持ちいい。氷点下の冷気が、額を通して身体から熱を奪っていく。氷はすぐに溶けてしまうけど、ヒャダルコはちょっとやりすぎてしまうから使えない。かといって連発しようにも、魔力には限りがあるし、どのくらい使えるかわからない。これは計画的に使っていかないと。

ツアーにはエドたちぐらいの年の子も多くいたけど、元気な老夫婦もいたりした。全部で何人いただろう、思っていた以上に結構な規模だったから城下町ではびっくりしたな。
参加者たちは、整備されたピラミッドへの道を列になって歩く。鎧に身を包んだ用心棒のような人たちが、この隊列を先導していた。
こんな厳しい気候の中で、これだけ歩いて大丈夫なんだろうかと、ちらっと後ろにいる老夫婦を見たんだけど、ものすごく楽しそうな顔をして談笑していた。現地の人なんだろうか、汗一つかいていない。なんてエネルギッシュな人たちだろう。
エネルギッシュさで言えば、僕たちも負けてはいないんだけど。ああ、僕以外は、かな。
「この道、どこまで続いてるんだろ?」
「ピラミッドまでじゃないの?」
「走りたくなるよなー!」
「ほんとだねー!」
「ダメだよ、怒られるよ?」
はしゃぐエドとルージャを、ノイルが止めている。ノイルも大変だなぁ。一年間同じ部屋で寝泊まりしてたって話だけど、よくあの二人をコントロールしてくれたよ、ほんと。僕の手にはきっと負えなかっただろう。

お昼すぎに出発して、日が沈む頃には中継地点の小屋に到着した。そうしたら、これまたびっくりする出来事があったんだよね。
「はーい、お疲れ様でーす。今日はここで休んでくださーい」
小屋に入ると、入口でツアーの人から水をもらった。道中、ちょこちょこ給水をしてくれるポイントがあったんだけど、僕は割とおとなしく歩いてきたものだから、水にはいくらか余裕がある。ちらっと三人の方を見ると、やっぱり元気におしゃべりタイム。水なんて必要なさそうだ。
あまり多すぎてもどうかと思うし、誰か必要な人がいたら譲ろう。いくら整備されているとはいっても砂漠のど真ん中、用意されている水の量には限りがあるはずだ。別の誰かに使ってもらったほうが、きっと役に立つ。
一度もらったものだけど、返しに行こう。三人には「ちょっと離れるね」とだけ声をかけて、僕は係の人を探した。
人より先に、スタッフルームが見つかった。小屋の隅っこに、壁と同じ色の目立たないドアがある。「関係者以外は立入禁止」って札がついているから、きっとここの人に返せば間違いはないはず。
右手をあげて、控えめにドアを叩く。
「……」
返事がない。
もう一度だけ、コンコン。
「……」
うーん、誰もいないんだろうか。仕方ない、さっきの人を探しに戻ろう。そう思って、引き返そうとしたとき。

「…ったく、誰だ?」

ぶっきらぼうな声と同時に、ちょっと乱暴にドアが開いた。僕の目の前に、大きな身体が現れる。
僕の背はそんなに低いわけじゃないけど、それでも少し見上げないと、顔が見えない。視線を上げていくと、無愛想な顔がそこにあった。どこかで見たような…あっ!
口を開くより先に、僕のものじゃない、声が。
「…げ」
ほんの少し早く、先に気付いたのは向こうだった。
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