たびにっき - 9

「「「ひさしぶりー!!」」」
四つのグラスがカチン、と音を立てる。中身はみんなジュースだけどね。
ここはバハラタの宿屋の一室。今夜の僕の寝床になるところだ。そこで、ささやかなパーティーが開かれていた。
さっき響いた三人の声は、エド、ルージャ、ノイルの三人だ。再会したのは最後の別れぶり、そこから一度も会っていなかった。一年ほどだけど、三人とも背が伸びて、見た目も結構変わっていた。僕も十歳ぐらいの頃は、一年でこれだけ変わったんだろうか。
あの橋からバハラタの町までは一直線だった。町には期待していた通り、教習所の元気印たちがいた。僕が旅の途中で立ち寄ったって言うと、後で宿におじゃまする!って言われて。僕も色々と話をしたかったし、二つ返事でオーケーしたわけだけど。できるだけ他のお客さんの迷惑にならないよう、静かに騒がないと…。
エドだけはどこかばつの悪そうな顔をしていたけど、それは僕がここまで来る道すがら、過ぎたいたずらを怒っていたせいだろう。でも、あの時は本当にびっくりしたんだ。何より、スケッチブックが残念なことになりかけたんだから。
…今考えるとちょっと大人気なかったかもしれないな。反省しないと。

「みんなは今何をしてるの?」
とりあえず、久々に会った同士ではお決まりの質問を飛ばしてみる。気になるよね、みんなのその後って。てっきりエドはルザミにいるとばかり思ってたし。それも、あの時びっくりした理由の一つ。
「ぼくとルージャは毎日のように勉強させられてるよ…今日もおばさんに何回も怒られたよね」
ノイルが疲れた顔で答えた。
「向こうで何をしてたんだ、とか言われたけど、ボクたちちゃんと勉強してたのにねー」
ルージャも不満をかかえているみたいだった。こうして膨れっ面をするあたりは、一年前と変わりない。
勉強にもいろいろあるもんなあ。きっと二人がさせられているのは、普通の人たちが生きていくために必要な勉強なんだろうけど。
「まあ、今だけの辛抱だと思って頑張ろうよ。僕にもそういう頃があったから」
「いいよね、アリュードは…もう遊び放題なんだもん」
や、遊び放題ってわけじゃないんだけど。でもあえてぐったりしてる二人にとどめを刺すこともないと思って、黙っておくことにした。
「エドは?」
「おれは暇だから一ヶ月ぐらい前からこっちに遊びに来てるんだ。もうすぐ帰るけど」
「あれ、エドは勉強しなくていいの?」
「いや、なんか来年からいろいろ手伝わされるっぽいんだよなー。それで、ゆっくりできるのは今年までだろうから今のうちに遊んどけって言われて」
なるほど、住んでるところでやらなきゃならないことも違うのか。確かに、ルザミは離れ小島だから船を出したり、そういうことのほうが必要なんだろうな。だとしたら、そういうスキルを身につけるのはもう少し大きくなってから、ってところかな。

うんうんと一人でうなずいていたら、今度はエドから質問が。
「そういうアリュードは何してるんだ?」
「僕?僕は…」
お店やってるよ、と簡単に言うと、三人の目の色が変わった。
「すごい!どこで働いてるの?」
「働いてる、っていうか…僕の店なんだけどね。ムオルの自分の家だよ」
「えっ、もう自分のお店持ってるの!?」
「世界中にお店作ったりしないのか?」
あー、なんかちょっとだけ勘違いされてるな、これ。言葉が足りなかったし当然といえば当然か…。
「お店って言っても、ただ自分の描いた絵を並べてるだけだよ。特にお金がいっぱいほしいってわけでもないし…こっそりやってるのが性に合うかなって」
「美術館?」
「いや、ちょっと違うような…まあとにかく、趣味でやってるちっちゃなお店だよ。よかったら今度遊びに来てよ」
行く行く、と身を乗り出してはしゃぐ三人。なんだか微笑ましい。

それからまあ、いろんな話で盛り上がったんだよね。エドが連れてたスライムの話とか、ルージャの杖にまつわるお話とか。一年間過ごしていろいろ知った気になっていたけど、まだまだ僕の知らないエドたちがそこにはいたんだ。
…で、すっかり忘れてたんだよね。最初に気をつけよう、って言ってたことを。
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