バトンタッチ…? - 5
「ううん…気にしないで。それより、笑ってよ。私、テンの笑った顔が見たいの」

ソラの言葉に、テンは涙を拭い、精一杯の微笑みを彼女に向けた。



夕食を終えて、テンは王の間に戻ろうとするアベルを呼び止めた。

「父さん…ちょっといいかな?」
「ああ、いいよ。こっちで話そう」

アベルは部屋の隅の丸机に歩いて行った。テンもそれに従って、アベルと向き合うように席についた。

「それで…どうしたんだい?今朝のことかな?」
「うん…僕、一生懸命考えてみたんだ」

アベルは頷く。テンは声のトーンを少し落として言った。

「僕は…まだ王様にはなれないよ…」
「どうして…そう思ったんだい?」
間髪入れずに、アベルが聞いてくる。テンはうつむき加減に、アベルの質問に答えた。

「僕はまだ国のこととか…よく分からないんだ。だから、これから頑張って勉強して、そういうことを覚えていこうと思ってるんだ。だから…今はまだ、王様にはなれない。…だめかな?」

テンは恐る恐るアベルの表情を窺った。すると、意外にもアベルは笑っていた。

「テン、どうしてお父さんがこんなことを言い出したか分かるかい?」
テンは首を横に振った。
「それはね、十八歳になったテンに、ちょっと悩んで欲しかったからなんだ。一生懸命考えて欲しかった。だからもし、あの場ですぐに「やる」とか「出来ない」とか言ったら、お父さんはちょっと残念に思っただろうね。だけど、テンはお父さんの思った通りのことをしてくれた。過ぎた誕生日プレゼントをきっちり受け止めてくれて、ありがとう。王様になることは、忘れてくれていいよ。まだまだお父さんは現役だからね」

それを聞いて、テンは安心した。と、気づけばビアンカとソラが来ていた。

「それでいいのよ。これで二人も、大人にぐっと近づいたわね」
「えっ…私も?」
「うん。テンのために、あれこれ考えて助言してくれたんだろう?ソラも立派だったよ」

グランバニア一家に、笑顔が戻った。



次の日から、国のことについて熱心に勉強を始めたテンに、サンチョをはじめとする周りの者は、ただ目を丸くするばかりだったと言う。ちなみに、二人の誕生日プレゼントが何だったのかは、一家のみが知ることだった。


end
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