Theme3 グラス
<グラス>
俺の片手に握られたグラス。たった今、ムーンから渡されたばかりの新品だ。
俺たちが今いる場所は船の上。ベラヌールで苦しんでるサマルのために、世界樹の葉を取りに行く途中だ。
「何だよ、それ…」
自分の声が震えているのが分かる。ムーンははっとしたように俺を見た。
なんでこんな状況になってるのか。それは、ベラヌールを訪れた時まで遡る必要がある。
ベラヌールは綺麗な町で、ガラス細工やら装飾品の加工やらも盛んな町だった。そこで、3人でお揃いのグラスを買って、「ハーゴンぶっ倒したらみんなでパーティーしような」って言ったんだけど、朝になったらサマルがあんな状態だ。
成り行きでグラスを持って来ちまったんだけど、この船室でさっきムーンが何て言ったか。
「もしサマルが回復しなかったら、私たち2人でもハーゴンを倒そうね」
なんて言いやがった。
で、初めに戻る。
「ど、どうしたの、ローレ…?」
「ふざけんじゃねぇ!!」
気が付いた時、俺は手にしたグラスを床に叩きつけていた。
四方八方に飛び散るグラスの破片。
「何でそんなマイナス思考なんだ!?いっつも明るくて前向きなお前が!!」
俺の口は勝手に動いていた。
「サマルがダメだったら?2人でハーゴンを倒す?ふざけんな!んなこと出来る訳ねえだろが!」
「………」
ムーンは押し黙っている。ちょっと言い過ぎだとは思うけど、言葉は次々と飛び出していく。
「俺たちはな、3人で1つなんだよ。誰が欠けてもダメなんだ」
「………」
「あいつは絶対戻ってくる…絶対…戻っ…て…」
…あれ?何で俺、泣いてんだ?最悪だ、ムーンの前で泣いちまった。
必死に下向いて、泣いてんのを誤魔化そうとするけど、バレバレだった。
「次に…そんなこと言ってみろ、俺は…お前…を…絶対…」
「…ローレ!!」
いきなりムーンが俺に抱きついてきた。慰めてくれてんのは分かる。けど、めちゃくちゃ恥ずかしい。
「…お願いだから、そんな顔しないで…」
何でか分かんねえけど、ムーンがそばにいるとすごく安心出来た。俺は、声をこらえて泣き続けた。
割れたグラスの破片は、何も言わずにただキラキラと光っていた。