Theme1 ハサミ
<ハサミ>



港町、ルプガナで宿を取った。彼らが宿を取ったこの日に限って、運悪く混んでいて、今日は1部屋に3人で寝ることになった。

その夜中、何かの音でローレは目を覚ました。今日はいつもより眠りが浅かったようだ。

ふと起き上がってみれば、ムーンがライトを点けて何かの作業をしている。

「何してんだ?」

少しこもった寝起きの声が、妙にムーンにはいつもより優しく聞こえた。

「あ、起こしちゃった?ごめんね。ちょっと服を縫ってて、それが終わって後始末してるとこ」

そう言いつつムーンはライトの明るさを少し下げる。

「別にいいよ。それより、部屋の電気点けろよ。暗い中でそんな細かい手作業やってたら、目、悪くなるぞ」

「…そうね、ありがと。でも、もう終わるから大丈夫よ」

ムーンはローレに微笑みを返した。その時ローレの視界に、ちらっとだけ、キラリと光る何かが見えた。

「…またえらく綺麗なハサミだな」

ムーンの使っているハサミは、ムーンブルク王家の紋章が刻まれた、銀色に光るとても綺麗なハサミだった。

「…これ、城が襲われた時に私が持ってたたった1つの宝物なの」

そう言いながら、ほつれた部分を手際よく切っていく。先ほどローレの目を覚ましたチョキ、チョキというリズミカルな音が、なんとも心地よく感じられた。

「…そうなのか。大事な物なんだな」

「うん。お城が元に戻るまで、絶対に無くさないわ」

ローレはいつしか目を閉じて、まだ続くハサミの音に身を任せていた。その音からは、心地よさとは別に感じられた、ムーンの寂しげな気持ちが感じられたような気がしてたまらなかった。

「…俺、絶対ムーンを守るから」

気付いた時には、彼は呟いていた。背後から聞こえたその言葉に、ムーンの手が止まる。初めて、ローレの本音が聞けた気がした。

「…ありがと、ローレ」


今は信じよう。

自分を救ってくれたこの男の言葉を…。


作業を終えてコトリと置かれたハサミが、薄闇の中で静かに光っていた。
prev * 154/243 * next
+bookmark
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -