Chapter 3-13
「……ごめんね、スィル」
「……なんでティマが謝るんだよ」
「ボクは何度かクエストを受けているのに、スィルにちゃんと教えてあげられなかったから……」
「そんなことないよ。オレだって、ティマがいてくれるから大丈夫だと思い込んで自分じゃ何も準備しなかったんだから……」
二人ともに、反省すべき点があった。スィルツォードはそう言って、ティマリールが背負おうとしている見えない荷物を半分取り上げた。
「……よしっ!」
それを聞いて、ティマリールも立ち直ったようだ。ぱしっ、と自らの頬を叩いて気合を入れる。
「せっかくクーちゃんが手助けしてくれたんだもんね、期待を裏切るわけにはいかないよ!」
「ああ、しっかり頑張ろう!」

太陽はまだ高い。二人は頷き合って、街の外へと一目散に駆けていった。


眩しい太陽の光が射す草原。特別暑いとまではいかないが、その中をひた走る二人にとってはなかなかつらい気温のようだ。時折吹く風が、肌に浮かんだ汗をほんの少し消し去るも、蒸発せずに残る方が圧倒的に多く、額を拭う仕草の回数は増えるばかり。それでも、二人は走り続ける。
「スィル、まだ大丈夫ー?」
先を行くティマリールから、まだまだ余裕のある声が飛んでくる。武闘家だと自称した彼女の弁は伊達ではなかったらしい。見た目以上に、彼女には体力があるようだ。しかしここは、スィルツォードも弱音を吐くわけにはいかない。
「ああ、まだまだいけるよ!」
そう返して、彼女のあとをついて行く。

踏みならされてうっすらと土が覗く地面を頼りに、二人は進んでいた。レーベが街と呼べるまでに大きくなり、馬車馬が行き来するようになってから、両都市の間には自然と街道のようなものができ始めていた。

「来たよっ!」
不意に、鋭い声が上がる。草むらの影に、どうやら迎えがいたらしい。二人の前にはスライムと大烏。
そして、目当てのモンスターの姿もある。
「よし、ついてるぞ!」
剣を構えながら、スィルツォードは間合いを計る。大烏が飛び上がり、大きな嘴を向けてティマリールに襲いかかった。

「……てーーーーい!!!」

掛け声とともに、突っ込んでくる鳥駆を鋭く蹴り飛ばす。グェッ、という情けない呻き声を残して、大烏は草むらの向こうに吹っ飛んだ。
一方スィルツォードは、動きがないと見て、先手必勝とばかりにスライムに向かって斬りかかっていった。ゼリー状の体が真っ二つに裂け、こちらも決着した。
「よし、あとは――」
まだ敵は残っていると、くるりと振り向こうとする。しかし、彼は対多数の戦いにまだ慣れていなかった。その背後から、尖った角が突っ込んできていることに、気付くことができなかったのである。

「ぐぁっ!!」

背中越しにわずかに見えたのは、白く太い角だった。背中に鈍い衝撃が走り、息が止まる。衝撃に剣が手を離れ、そのまま前に倒れ込んだ。茂った草に顔が埋もれる。
「スィル!!」
苦しげな彼の声を聞いたティマリールが、慌ててそちらを向く。しかし、その時にはもう追い打ちの突進がスィルツォードに迫っていた。割って入るには、少し距離が開きすぎていて間に合いそうにない。

「……っりゃ!」

うつ伏せの格好で倒れこんでいたスィルツォードは、すんでのところで寝返り、その攻撃をかわす。そのまま立ち上がると、勢い余って地面に突っ込んでもがいているウサギを渾身の力で蹴りあげた。
白いウサギの体は低い放物線を描き、ちょうどティマリールのすぐそばに着地した。覗き込むが、どうやら動く気配はない。もう、恐れるべき凶器はなかった。それはスィルツォードの足元に残っていた。蹴ったときに根元からぽっきりと折れたようだ。
「これだな、よし」
地面に深々と刺さっている角を拾い上げ、土を払う。ティマリールもさっと小型のナイフを取り出し、毛皮をすこしばかり剥ぎ取る。上々のスタートだ。

「とりあえず、一本目だね! 幸先いいかも」
「ああ。この調子なら、割とすぐに片付くかもしれないな!」

互いの戦利品を確認し、しっかりとしまい込む。
まだ目的の草原への途中ながらも、残る角はあと一本。この調子なら、十匹の討伐にもそう時間を食うことはないかもしれない。雲がかっていた二人の空に、うっすらと光が射してくる。意気も高まり、並んで歩を進めようとしたその時。

「うっ……!?」
思い出したように背筋に強烈な痛みが走り、スィルツォードは膝に手をついた。
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