Chapter 3-7
「……ん?」
どういう意味だろうか。スィルツォードの思考が一瞬停止する。そうして、コンマ数秒遅れて脳の思考回路が仕事を再開する。
「ちょっと待って、ティマリールって……」
「ふふふん、ボクは19歳なのだよ。スィルよりふたつも上なんだなー、これが」
「うぇぇっ!!?」
思わず後ずさるスィルツォード。
「あー、信じてないなー」
「いや、その……!」
「そりゃーこんな感じだし、ボクのほうがずっとちっこいからだろうけどさー」
「ご、ごめん! なさい!」
「えっ?」
「……えっ?」
何を言えばいいやら、とっさに謝ったスィルツォードに目を丸くするティマリール。そして。
「……あっはははははは!! ちょっと、何それ!」
「いや、だって…年上にオレ、生意気言って…」
「ごめんなさいって……! あははは……! あーおかしっ……自分から言っといてあれだけどさ、接し方は今まで通りでお願い!」
「はっ、う、うん。わかったよ」
はい、と喉まで出かかって、ごまかし気味にコクコクと頷くスィルツォード。うん、とはにかんで、ティマリールは窓に目を向けた。表情一転、どこかぼんやりと物悲しげな横顔が、スィルツォードの瞳に映る。先ほどまで笑顔ではしゃいでいた彼女と同一人物だとは思えないその眼差しに、彼女の言葉が嘘ではないということを彼はうっすらと感じ取った。

「……年の割に、子供っぽいんだよね」
「いや、そんなことは……」
「いいんだ。ボクが一番よくわかってるから……普通の19歳なら、盗賊団のアジトに借り物に行ったりしないよきっと」
あはは、と弱々しく笑うティマリール。そんな彼女を見ていると、「いや、それは歳関係ないと思うけど」などという茶化しのフレーズではなく、別の言葉が自然に浮かんできた。
「……何か訳があったのかも分からないし、会って一日やそこらで言えたことじゃないかもしれないけど、子供っぽくたっていいんじゃないか? 元気なティマリールが"らしい"とオレは思う……んだけどさ」
「ありがと。スィルがボクのことをそう思ってくれるなら、やっぱりもっと同じ目線で接してほしいなって。ダメかな?」
こんな頼み、断れようか。いや、断じてそれはできなかった。
「いや……ダメなんかじゃない。んじゃ、お言葉に甘えてティマって呼ばせてもらおうかな」
「だいかんげーい! よろしくね、スィル!」
「あぁ。こっちこそよろしくな、ティマ!」

そうして、差し出された手を、しっかりと握る。

「さてと、それじゃこれでボクの思い残すことは何もない!」
「おいおい、なんだよそりゃ。成仏でもするつもりか?」
「さぁねー。もしそうだったらスィルはどうする?」
「いや……軽く拝んどけばいいか?」
「ひどい、殺さないでよっ!」
「聞いたのは誰だよ!」
軽い漫才を演じながら、二人は廊下を歩く。ぼんやり歩いていたせいか、スィルツォードは自分の部屋を通りすぎてティマリールの部屋の手前まで来てしまった。
「あ、行き過ぎた。ごめん、オレ戻るよ」
「ありゃ。スィルのお部屋はどちらさん?」
「セルフィレリカの部屋のふたつ隣だけど」
「ほほー、開かずの間を挟んでるわけですな?」
「そうらしいな。ティマは誰がいるか知ってるか?」
「さあねー。ボクもわかんない。多分知ってるの、ボスかルイーダさんぐらいじゃないかなぁ」
「そっか」
ボスっていうのはダンケールさんだろうな。
スィルツォードにも、それはなんとなく理解できた。

「あっ、そうだ。スィルは明日予定ある?」
別れの言葉を口にしようとしたところに、不意に声がかかった。
「予定? まだ特には考えてないけど……」
「じゃあさ、一緒にクエスト受けてみない?」
「ほんとか!?」
その提案は、スィルツォードにとって魅力的だった。セルフィレリカと一度経験したとは言え、あれは数に入らないようなものだったろう。見上げてくる顔を見ていると、自然と声にも弾みがついた。
「いいな、やろう!」
「決まりだね! それじゃ明日の朝九時に、ラウンジで待ち合わせよっか!」
「分かった、遅刻しないよう気をつけるよ」
「あはは……耳が痛いなぁ。どっちかっていうとボクのほうが気をつけなきゃ……」
お互いに苦笑い。
「んじゃ。またな」
「はいはーい、また明日ね!」
最後に一言ずつ交わして、スィルツォードはくるりと来た道を引き返す。

「……ありがとね、スィル」
その後ろで、小さく唇が動いた。
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -