Chapter 3-4
「……こいつは驚いた」

時刻は昼下がり。照りつける太陽の下で、ダンケールは呟く。
視線の先には、肩で息をするスィルツォードの姿。周りは死屍累々、モンスターの骸が転がっている。スィルツォード自身も無傷とはいかず、身体のいたるところから血が滲んでいる。
「はぁ、はぁ……」
彼の手には大きな槌が握られている。
その槌を杖代わりに立て、ダンケールの方に向き直った。

「ここまで多彩な武器を並に使えるとは……スィルツォード、冗談抜きにお前さんは戦いに恵まれとるかもしれんぞ」
ダンケールは大満足だった。元は剣でいいだろうといういい加減な考えであったが、物は試しとやらせてみればどんな武器も形としては使えるときたものだから。
「とりあえず、ほれ。使え」
ドサッ、とスィルツォードの目の前に落ちる小袋。拾い上げ開くと、これでもかと薬草が詰まっていた。
「こんなになくても大丈夫ですけど……」
「持っておけ。これから先何度傷付くか分からんのだからな」
「……ありがとうございます」
言葉に甘え、袋からいくつか取り出して残りを懐に突っ込む。

「このガラクタはお前さんに全部やろう。好きな武器を手にとって特訓すればいい」
「いいん……ですか?」
「構わんよ。どれも武器と呼ぶには物足りん安物だし、どちらにせよ物置で眠ってたヤツらだ。お前さんのトレーニングの足しになるなら廃物利用もいいところ、って具合だからな」
「ありがとうございます。使わせてもらいます」
「そうしてくれ。さて……よっと!」
話しながら転がっている武器をかき集め、袋に押し込んだダンケールは、張った声とともに袋を持ち上げる。全てを振り回して、一つ一つが結構な重さだったことを実感したスィルツォードは、その怪力にぎょっとする。
「……重くないですか?」
「この程度大したことはない。軍隊じゃこれくらいの体力も無ければ話にならんかったからな」
「軍隊?」
「ん、俺の過去の話はまだしていなかったか。まあ知ってどうなるもんでもないんだが……」

そのまま街へ向かい歩き出すダンケール。大きな背中を追いかけながら、「せっかくだし教えてくれませんか?」とスィルツォードは問う。

「俺はな、一昔前にロマリア軍にいたんだ。大体十五年ほど前の話だがな」
「そうだったんですか」
「ああ。毎日戦いばかりでな、疲れて辞めちまったがな」
「それで……なんでギルドに入ったんですか?」
「……ん?」

あれ、何かまずいこと聞いたかな。
突然足を止めたダンケールの背後で、スィルツォードはとっさにそう思った。が、どうやら杞憂だったようで。

「……ははは。スィルツォード、お前さんは知らんかったか」
「何をですか?」
「十五年前にはな、ギルドなんぞ世界中どこを探してもありゃしなかったぞ」
「えっ?じゃあ、ギルドっていうのはいつからある……」
「五年前」
「?」
「俺が作った。ソティアと一緒にな」

「……ええっ!?」
飛び上がるスィルツォード。しかし、彼はもう一段階飛び上がる準備をしなければならなかった。
「……そのソティアっていうのは誰ですか?」
「ルイーダのことだ。嫁さんだよ、俺の」
「…………!!」
もはや声が出なかった。なんという。自分の知らないことが次々と、意外すぎる形で繋がっていく。
「一応、信じられんというなら証拠もあるが」
「証拠ですか……?」
「これだ」

ダンケールから肩越しに渡されたのは、ギルドメンバーのカード。そのカードには淡い青の石が散りばめられており、太陽の光を乱反射して輝いていた。『G-No.001』という文字だけで、ダンケールの言葉が紛れもなく真実であると信じるには足りていた。
「これは……」
「オリハルコンの欠片らしい。ソティアもなかなか粋なことをするだろう?」
「カードのデザインってルイーダさんがしてるんですか?」
「ああ。俺にはこういうセンスはないからな。俺なら紙切れにランクと名前とナンバーを書いて渡してるさ」
「はははは……」
「まあ、そういうわけだ」
ダンケールにカードを返す。ちらと見ただけではあったが、最上位のカードはスィルツォードを引き込むには十分だった。

「……オレ、頑張ります。いつか、ダンケールさんと同じランクになれるように!」
「ほう、そいつは楽しみだ。だが道のりは遠く険しいぞ?」
「はい!」
「……それだけいい返事ができるなら、心配ないな」

ダンケールの声も明るく、二人、夕方に向かっていくアリアハンの街へと歩いた。
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