Chapter 3-2
「じゃあ、オレはこれで。また今度!」
「ええ、お相手ありがとうございました。では、ご機嫌よう」
一階へ下りる階段の前。食事を終えたスィルツォードはダンケールの呼び出しに応じるため、ここでミストと別れることとなった。
ぺこりと頭を下げたミストに軽く手を振り、スィルツォードは階段を駆け下りる。カウンターの前を通り過ぎ、ちょうど階段と反対側に位置する扉の前に立つ。ちらりとカウンターを一瞥したが、ルイーダの姿は見当たらない。きっと色々多忙なのだろうと勝手に納得し、彼は自分の用を済ませるために右の拳を上げた。

――コン、コン、コン。

少し控えめにノックをすると、ややあってから「入っていいぞ」と声があった。間違いなく、今朝聞いたダンケールの声だ。
「失礼します」
そう言って、スィルツォードはゆっくりとドアを開けた。
中は雑然としていた。隅の方には酒樽だろうか、大きな樽が数個置かれている。その隣には剣やら槍やら盾やらがいかにも投げられたように積まれており、反対側に目を向ければ書類の束がいくつもある。部屋の主は、ちょうどそのうちの一束をつかんで何やら目を通している最中らしかった。

「すまんな、散らかっていて。ここは、ギルドが立ち上がってから倉庫というか、物置のようになっているんだ」
俺が整理できない質なもんでな、とやや自虐的に笑いながら、ダンケールはスィルツォードを迎え入れた。

「わざわざ朝の心地良い時間に邪魔して悪かった。どうしてもお前さんに確かめておきたいことがあったもんでな」
「それは大丈夫ですけど……何ですか?」
「なに、悪い話題じゃない。スィルツォード、お前さんの武器についてだ」
「武器?」
予想していなかった言葉が飛び出し、スィルツォードは面食らう。ダンケールはああ、と頷き、続けた。
「昨日、初めての依頼をこなしたそうだな。冒険者職に就いているわけでもないというのに大したものだ」
「あ、ありがとうございます」
「セルフィレリカに聞いたんだが、剣一振りで大烏を真っ二つにしたそうじゃないか。経験でもあったのか?」
「魔物をやっつけるために剣を振ったのは、昨日が初めてですけど……」
戸惑いながら、質問に答えるスィルツォード。と、それを聞いてダンケールの目付きが変わった。
「……なんだって?」
「ほ、本当ですよ。オレ、いろいろ仕事してきましたけど、冒険者にはなったことないし……」
「じゃあ戦闘に関しちゃ素人ってことか? その素人が、たったの一太刀で大烏を葬ったと?」
「……そうなるんですかね」

しばしの沈黙。
それから一拍おいて、ダンケールは大声で笑い始めた。
「……わははははっ!!」
「!?」
「こいつは傑作だ、スィルツォード!! 鍛錬さえすれば、お前さんは立派な冒険者になれるぞ!」
「えっ……?」
背中をバシバシと叩いてくるダンケール。その勢いが強いので少し痛い。
「大烏はモンスターの中じゃ雑魚だが、そんじょそこらの一般人が付け焼刃でどうにかなる相手でもない。お前さんには戦いのセンスがあるってことだ」
「いや、でもオレ、昨日倒した敵はそれだけだったし……」
「……ふむ」

射抜くような視線がスィルツォードに刺さる。しばらく彼の顔を見つめた後、ダンケールはおもむろに口を開いた。
「スィルツォード、これから少し時間はあるか?」


街の外。
ダンケールに付き従ってきたスィルツォードは、辛抱たまらず訊ねた。
「ダンケールさん?」
「ん?」
「どこまで行くんですか? あと、その荷物は……?」
ダンケールが右腕で担いでいる大きめの袋。
くるりと辺りを見回して「この辺でいいな」と呟いてから、彼はスィルツォードに答えた。

「お前さんには、これから少しテストをしてもらう」
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