Chapter 2-11
「……ん?」

一階に下りると、カウンターが少し騒々しかった。
階段がある場所から外へ向かうには、自然とカウンターの近くを通る格好になる。階段の側から、二人はカウンターを眺める。そうしてざわつきの正体をちらりと見た。
ルイーダと、若い女が相対している。どうやら身なりから盗賊のようだ。

「……はい、納品確認。これが報酬だけど、いつも通りでいいんだね?」
「ん、頼む」
「しかしねぇ……アンタ、どうやって食ってるんだい。心配になっちまうよ」
「アタシは大丈夫だって言ってんだろ。信用ないな」
「ま、殺したって死なないようなアンタのことだ、きっと大丈夫なんだろうね。さて……これで完了だね。またよろしく頼むよ」

どうやら話は終わったようだった。女はカウンターを離れ、階段へと向かってくる。
すれ違いざまに、ちらと、女と目が合ったような気がした。
鋭い眼光。相手を射抜かんとする眼差しに、スィルツォードは一瞬言葉を失った。
「……なんかキツそうな人だったな」
女が二階に上がったのを確認して、スィルツォードはぼそっと呟く。隣にいたセルフィレリカはそれを聞いて、
「いや、実際彼女はキツい性格だよ」
と言った。
「女盗賊アネイル=ハンティアと言えば、その道ではなかなか名が知れているらしい」
「アネイル……か」
「どうした? 一目惚れでもしたのか?」
「まさか。ただ、ちょっと話してみたいとは思ったけど」
「はは、キミは命知らずだな……一匹狼に近づきたいなどと」
セルフィレリカはそう言って笑う。
「……まあ、機会があれば嫌でも話をすることになるだろう。それが今でないだけのことだ」


◇◇◇


「さて……キミは戦闘の経験はあるか?」
アリアハンの街を出て、最初の一言。
色々な職に就いてきたことは聞いたが、とセルフィレリカは問うた。
「ちょこちょこ、仕事で外に出たときにって程度かな」
「なるほど。先に言っておくが、これから先は常に命の危険がつきまとうことになる。自分の身は自分で守る、それができないようでは話にならないぞ」
「ああ、それは分かってる」
真剣な面持ちでスィルツォードは首を縦に振る。
「オレは変わりたい。絶対に変わってみせる」
「その意気だ。っと、早速お出ましだぞ」

セルフィレリカが足を止める。大烏、ちょうど求める敵が現れた。
「お手並み拝見といこう。キミの強さ、見せてもらおう」
「オレが倒せばいいんだな。やってやる」
ずいっと一歩、スィルツォードは前に出た。そして、じっと相手の動きを見る。
素早い動きでスィルツォードに近づいた大烏は、その鋭い嘴で彼を突つかんとする。
スィルツォードはそれをかわし、一発、蹴りを叩き込む。
グェッ、という声が大烏から漏れた。
(いい動きをするじゃないか)
その様子を見たセルフィレリカは、思った以上のスィルツォードの動きに目を見張った。

その後も、スィルツォードは落ち着いた様子で、敵の攻撃を見切り、避けざまに拳や蹴りを繰り出していった。が、やはり戦いに関しては素人、素手のままでは決定打に欠ける。
(くそっ……なんとか止めを刺したいな)
そろそろスィルツォードも焦れ始めていた時だった。
「貸してやろう」
後ろからの声に、スィルツォードは振り返る。セルフィレリカが、その手に持つ剣を差し出している。
「サンキュー、借りるぞ」
それを受け取り、しっかと握る。向かってくる烏の胴めがけて、一閃。

――確かな手応えが、手に伝わる。

大烏はきれいに二分され、先ほどまでの苦労が嘘だったかのように呆気なく息絶えた。
「ほう……」
セルフィレリカが小さく声を漏らす。

「返すよ。ありがとう」
さっと血を払い、スィルツォードは剣を持ち主に返す。
「なかなかいい太刀筋だったな。鍛錬を積めばそれなりの剣士になれるんじゃないか」
「本当か?」
「ああ。動きはまだまだ素人だったが、悪くなかった。むしろ期待以上だったよ。さあ、忘れないうちに依頼の品を採取しなければ」

彼女はそう言いながら、大烏の骸に近づいていった。その足にある爪を二枚ほど剥ぎ取って、どこからか取り出した小さな布切れに包む。
「後はこれを納品すれば、晴れて依頼は完了だ」
スィルツォードに包みを渡しながら、セルフィレリカが言った。
「ずっとここにいるのもなんだ。アリアハンに戻ろう」
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