Chapter 2-9
「君が……ティマリール、だよな?」
溌剌な歓迎に面食らいつつ、握られた手をやんわりと握り返しながらスィルツォードは言った。
「ありゃ、もうボクのこと知ってるんだ」
ティマリールはなーんだ、と残念がりでもしそうな声色でつぶやく。
「そーだよ、ティマリール=ライオネリア。さっきは助けてくれてありがと! ……あー、やっぱりケガさせちゃったんだね。ごめんね」
スィルツォードの様子を見て、やや目を伏せて項垂れる。元気な声が、少し勢いを失う。
「いや、そっちが無事なら良かったよ。オレはスィルツォード=グレイネル、今日からここで頑張るからよろしく」
「……うん、ありがと。スィルツォード、だね。よし、覚えたぞー!」
気にするな、という彼の言葉に、小さく笑って礼を繰り返したティマリール。と、長身の男も登録所のカウンターからこちらに戻ってきた。

「やれやれ……ティマ、君のせいで大変だったよ……」
「あっ、シーくん。だからごめんってばー、謝ってるじゃんかー」
「……シーくん?」
彼の名前だろうか?
訝るスィルツォードに、苦笑いを浮かべながら男は言った。
「ごめん、紹介が遅れたね。僕はセレン=ガレイア。商人やってるんだ、よろしく」
「あ、どうもよろしくです」
風貌から判断するに成人はしているだろう。しかし、セレンは「ああ、いいよ、普通に話してくれて。僕もその方が楽だし……」と、やや気弱そうに笑った。
「わかった……けど、なんでシーくん?」
ティマリールに向き直るスィルツォード。問いに答えたのはティマリールでなくセレン本人だった。
「それが……僕の名前、綴りが"C"から始まるんだけど」
「うん」
「僕がここに登録しようとしたとき、ちょうど手を怪我してて……。それで、たまたま近くにいたティマが代わりに名前を書いてくれたんだけどさ、綴りが間違っててさ……別の人だと思われてたみたいなんだ」
「あー……そりゃ大変だ」
「おかげで報酬は来ないわランクは上がらないわ、そりゃ別人扱いだから当然だったんだけど。で、登録内容を修正するためにここに来てたんだ」
「そうだったのか……それで報酬やらランクやらの話は解決したのか?」
一番大事なのはそこだと、スィルツォードは訊ねる。するとセレンは頷いて、「一応。まだオレンジだけどね……」と、新調された登録証を差し出した。

"Rank:Orange"

「下から数えて三番目のランクだ」
オレンジと言われても要領を得ない彼に、側にいたセルフィレリカがこっそり耳打ちした。

「まあ、そういうわけで、ティマからはシーくんって呼ばれるようになったんだ」
「これでばっちり頭にメモリー! 完璧だよっ!」
笑顔でピースを向けるティマリール。
何かが違う、と思いながらも、スィルツォードは踏みとどまった。
「……とりあえず、オレも手続きしてくるよ。ちょっと待っててもらえるか?」
「ああ、分かった。すぐに済むだろう、このまま待っているよ」
座るテーブルはあるのだが、動くのが面倒なのだろうか、セルフィレリカはそう言って建物の柱に寄りかかった。


「新しい方ですね?」
「はい」
「では、ナンバープレートを」
「これですか?」
「はい、ではこちらにお名前を」

受付で、ルイーダから渡された数字のプレートを手渡す。入れ替わりに渡された紙に、スィルツォードは名前を記した――綴りに注意を払って。
「……はい、これがあなたの登録証です。常に携帯をお願いします」
「あっ、はい……(早いな)」
紙を渡して一分と経たぬうちに、登録証が渡された。
先ほど見たセレンのものはランク通りオレンジを基調としたデザインだったが、手元に来たのは白をベースにした質素なカード。名前とナンバー、そしてランクが記されている。背景には何かの紋章。おそらくは、このアリアハンギルドのマークだろう。

"Rank:White"

まあそうだよな、とスィルツォードは呟く。受付に一言礼を述べ、セルフィレリカたちが待つ場所へと引き返す。

「登録は済んだかい?」
「ああ、結構すっとできるもんなんだな。これでいいんだろ?」
確認も兼ねて、セルフィレリカにできたてのカードを見せる。彼女は細長い指でそれを受け取り、興味深げに「ほお……」と声を漏らした。
「"No.272"か……いつの間にこんなに増えたんだ……」
「そんなに大きい数字なのか?」
「まあ、現時点では当然キミが最大だ。それにしてもメンバーも増えたなと思ってね。大半は幽霊になっているんだろうが……」
はぁ、と小さくため息をこぼすセルフィレリカ。
「セルフィレリカは古参って言ってたよな。ナンバーはいくつなんだ?」
「わたしか? わたしは……この通りだ」

百聞より一見と思ったのか、セルフィレリカは懐からカードを取り出し、スィルツォードに手渡した。
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