Chapter 2-5
「……隣は開かずの間でな、わたしも誰が住んでいるのか知らないんだ」
「そうなのか……なんか不気味だな」
「といっても、ルイーダさんたちは誰がいるのか把握しているみたいだがな。まあ、わたしにとっては些末なことということだろう。おそらく、キミにとってもだ」
「なんか気になるな。まあいいか、とりあえず部屋も決めたし、荷物を置きに行ってくるよ」
「そうか。わたしもこれから少し用事があるから分かれるが、午後にまた合流してひとつ簡単な依頼を受けてみようか。それまで、このあたりを散策でもしているといい。登録所に行ってさっき言った手続きをしたり、ギルドのまわりがどんな様子なのか見て回ったりするのもいいかもしれないな」
「分かった、そうしよう。時間はどうする? オレはいつでもいいんだけど」
「そうだな、昼の一時に、朝にいた二階のラウンジで落ち合うとしよう」
「オッケー、それじゃまた昼に。紅茶ごちそうさん」
「ああ、お粗末様だ」


「さて……とりあえず登録所、だよな」
ひとまずやりたいことよりやるべきことを優先させようと、スィルツォードは二階に戻る。さっき確認した通り、登録所はフロアの角のカウンターだ。
しかし、カウンターへとやって来たスィルツォードは困惑した。そこには誰もいなかったのである。
「あれ、誰もいないな……ん?」
カウンターの上に、お知らせのようなメモが。読み上げてみると『午前中は都合により休み、登録の方は午後にお越し下さい』ということらしかった。
ちらりと壁に掛かった時計に目をやると、短針はまだ時計盤の"11"の文字に重なったころだ。
「……こりゃ、散策が先だな」
登録所が開くまでには、まだ一時間ほど残っている。まだギルド周辺のことを掴んでいない彼は、いい機会だししばらく外を歩いてみようと考えた。

「それにしても、こうやって見るとすごいよなぁ……」
アリアハンの顔とでも言うべき街の入り口部分は、大変な活気に満ちていた。
活気といえば、スィルツォードは下町の朝市を思い出すのだが、人の多さという点ではまるで桁違いだった。旅人、貴族、兵士に行商人と、様々な職の者たちが右へ左へ過ぎていく。歩道を歩きながら、彼はただただ驚くばかりだった。

通りの店にも目を惹かれた。武器屋、防具屋、道具屋はもちろんのこと、服、宝石、さらには何をしているのかよく分からない店までずらりと通りに並んでいた。ここを過ぎると、目に見えて人の数は減った。このまままっすぐ行けば、アリアハン城へと続く十字路に出る。

と、その時だった。

スィルツォードの前を、何かがさっと横切り、路地へと消えていった。
反射的にそちらを見る。影が少女のものだと知覚するころ、同じように数人の男が路地へと駆け込んでいった。「待ちやがれ、このガキ!!」という罵声を浴びせながら。

ただ事ではないらしかった。迷う間もなく、スィルツォードはその後を追う。
一体あの少女は何故追われていたのか、また男たちは何故少女を追っていたのか、そんなことを考えることはなく、ただ足が動いた。
入り組んだ路地を右に左に駆け抜けた先で見たものは、ある程度は予想していた光景だった。

「さあ、さっさと言っちまった方が身のためだぜ」
「そうだ、お前も痛い思いをしたくはないだろう?」
意味ありげな台詞を吐いて、少女に詰め寄る男たち。が、彼女はきっぱり言い返した。
「……だから、ボクは知らないって言ってるじゃんか」
「嘘つけ! てめぇ知ってんだろうが、さっさと吐け!」
「いや、吐くもなにも知らないものはどうしようも…」
「上等だ。てめぇ、覚悟はできてんな?」
「なんの」
「決まってんだろうが。口割るまで痛めつけてやる」

拳を鳴らし始めた男たち。
これはいよいよまずいと、スィルツォードは「待てっ!」と叫んで飛び出した。
「……あ?なんだてめぇは」
「その子が何をしたかは知らないけど、女の子を囲んで脅すなんて、男のやることじゃないだろ」
「なんだ、正義のヒーロー気取りか? ……うっとうしいガキだ、すっこんでろ」
「こんなところを見て見ぬふりできるほど、オレは腐った人間じゃない。あんたらみたいにな」
「んだ……とこのガキィ!!」

激昂した男たちがスィルツォードに向かってくる。少女を囲んでいた輪が切れた。

(……よし!)
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テーマ「人外ファンタジー」
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