Chapter 2-4
「あのー……説明ってこれだけですか?」
唖然としつつも、とりあえずはと確認をとってみる。しかし、ルイーダは逆に目を丸くし、「そうだけど…どうしたんだい?」と聞き返してきた。
「いや……どうしたっていうか、なんか短かったなって」
「なに、うちのギルドなんてこんなもんさ。それ以前に、こうやって個人的に説明することだってそうないんだよ?あの子に頼まれたからやっただけでね」
「あの子?」
話されたワードの中から、スィルツォードの頭は引っかかった単語を抜き出した。するとルイーダは慌て気味に、「ああ、いや、なんでもないよ」と濁した。

「……ところでだ、アンタはこの上に住み込むのかい?」
「えっ?」
急な話題の転換に、スィルツォードはついていきそびれた。
「だから、ここに住み込んで仕事するのか、毎日家に戻るのかどうすんだいって話だよ」
あぁ、その話か。
二度目の説明を聞いて、ようやく彼はその主旨を理解した。
「できれば……」
家と呼べるその場所、そこから通える距離ではある。
が、しかし。
彼は自分に望み、誓ったのだ。自分の足で、歩んで行きたいと。
「部屋が空いてたら、住まわせてほしいんですけど…」
「ん、了解。それじゃ、空いてる部屋を適当に探してそこを使ってくれていいよ。三階から上が部屋だから」
「はぁ……」
相変わらずの適当な説明に、スィルツォードは半ば清々しささえ覚え始めた。
「さあ、今日から頑張っておくれよ。期待してるからね!」
「あ……はい!」
なんとなく気圧されたのか、彼は背筋を伸ばして大きく返事をしたのだった。
……結局、最後まで気になった「あの子」という骨を喉に引っ掛けたまま。



(んー……)

三階。
さっき言われた通り、空き部屋を探して廊下をうろつくスィルツォードの姿があった。
ルイーダから受けた説明を思い返してみるが、ありゃあまりに適当なんじゃないかなぁ。そんな考えは、これまでにもう回数にして二桁は頭を通り過ぎている。
「とりあえず……どこにするか、なんだけどなぁ」
ひとり呟き、彼は廊下を歩く。
空いている部屋は、入口の戸が開けたままになっていた。そういう部屋が一つや二つならよかったのだが、この建物の上層部は思いの外過疎のようで、三階だけでも十数箇所の戸が開け放たれていた。
「……意外と、住み込んでる人は少ないのか。夜の酒場はあれだけ混むのに」
頭に浮かんだ自然な疑問を口にするスィルツォード。すると、求めるつもりはなかったのだが、それに対する答えが意外な場所から返ってきた。
「当然だ、酒場なんて混むのが当たり前の施設なんだからな」
声は、閉められた戸の向こう側からだった。
その戸が開き、中から覗いたのは、清らかな黒髪。
ついさっき、スィルツォードが下でコーヒーを振る舞った少女だった。

「……なるほど。まあ、ルイーダさんにしてはかなり懇切丁寧に説明してくれたほうかもしれないな」
セルフィレリカはそう言って、スィルツォードに紅茶を差し出す。かなり高級感の漂うティーセットが見え、差し出されたティーカップもかなり良いもののようだ。「何もないが、ゆっくりしていってくれ」とはこの部屋に招かれた時の言葉であるが、何もない部屋にこんなティーセットはないだろう、とスィルツォードは心の中で言ってみる。
というかそもそも、この部屋の物は何かと質が高いように感じられる。なるほど、ランクが上がればこんな恩恵もあるのか、と彼は頭の片隅にメモをした。

「……それで、キミは早速部屋を探していたというわけだな」
「ああ、そうなんだけどさ、空き部屋が多くてどこにすればいいか……」
話が戻り、部屋探しの話題になる。
「基本的に各部屋の構造は同じだから、好きな場所で構わないと思うぞ。まあ、特に希望がないのなら、なるべくわたしの部屋から近いところを選ぶといいだろう。しばらくは一緒に仕事をすることになるからな」
「そっか、じゃあそうさせてもらうかな。確か二つ隣が空いてた気がするけど……一つ隣って誰がいるんだ?」
「ああ、それなんだがな……」
そう言って、少し言葉を切るセルフィレリカ。少しばかり困惑した様子の彼女に、「どうしたんだ?」と促すと、ややあって答えが返ってきた。
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