Chapter 1-4
「うわっ……なんだここ……」
店の中に入った途端、スィルツォードは熱気が渦巻いているのを感じた。ジョッキを手に、大笑いしている男たち。グラスを片手に話し込んでいる老人。何より驚いたのは、店の中にいる彼らの身なりだった。冒険者であるということは、スィルツォードにも察しがついた。

「暑苦しくてすまないな。この人混みを抜ければ、後はいくらか静かになるはずだ」
先を行くセルフィレリカにそう言われ、そのまま人混みを掻き分けて進むスィルツォード。
やがて、カウンターのような所までやってきた二人を迎えたのは、美しい容貌の女性であった。
「あれ? セルフィレリカじゃないか。どうしたんだい、その子は?」
開口一番、彼女の隣にいるスィルツォードを見て、女性はそう聞いた。
「ルイーダさん、彼はスィルツォード=グレイネルです」
「そうかい、その子が……」
ルイーダと呼ばれた女性は納得したように頷いた。
「それで、少し上を使わせてもらってもよろしいでしょうか? 少し彼と話がしたいのですが」
「ああ、構わないよ。ダンクにはそう伝えとくよ」
「ありがとうございます」
セルフィレリカは礼を言うとスィルツォードの方を向き、言った。
「そっちの方に階段がある。二階に上がってもらえるか?」
「ああ、分かった」
素直に頷き、スィルツォードは階段を上って二階へ上がった。


「何か飲み物を持ってこよう。コーヒーでいいか?」
「何でもいいよ、ありがとう」
一階とは打って変わって、二階には人は疎らだった。ここには限られた者しか入れないのだろうか、そんなことを考えている間に、セルフィレリカが二人分のコーヒーを持ってきた。
「そうだな、どこか適当なテーブルに座ってくれ」
「ああ」
短く返し、一番近いテーブルを取り腰を下ろす。向かい合う格好になって、セルフィレリカも椅子に座った。
「まあ、なんだ。突然連れ込むような真似をしてすまなかったな」
「いや、それは全然構わないけど……それより、あんたは一体何者なんだ?」
「ふむ、説明したほうがいいな」

コーヒーを少し啜って、セルフィレリカは話を始めた。

「わたしは、ここで働いている者だ。ここはただの酒場じゃなくて、アリアハン国営の冒険者ギルドでもある」
「ギルド?」
聞き慣れない単語に、スィルツォードは首を傾げる。
「そうだ。街の住人や困った人々の依頼を受けて、それを解決する。言ってみれば便利屋のようなことをやっているんだ」
「へぇ―、そうなのか。なかなか面白そうな仕事だな。でも、そんなに儲かるもんでもないんだろ?」
「それは人によりけりだ。ギルドにはランクという制度があって、初めの方こそ収入は少ないが、依頼をこなしていってランクが上がると、貰える給料が上がるだけじゃなくて、高額の報酬が用意された依頼を受けることもできるようになる。まあ、ちょっとした実力主義の世界だな」
「なるほど……聞いてる分には、なかなか大変な世界なんだな」
コーヒーを飲みつつ、スィルツォードは彼女の話に耳を傾ける。
「もちろん、やりがいもある。困った人を助けたり、悪事を暴いたり。わたしはこの仕事が好きだし、誇りと自信を持っているよ」
「いいな、そういうの。オレ、今までいろんな仕事やってきたけどさ、どれもやりがいがなくてすぐに飽きちゃったりしてさ。今日も新しい仕事頑張ろうと思って行ったんだけど、あんなことやっちゃったもんだから一日でぽーん、だよ」
「まさか、初日で首を切られたのか。そこまでとは思わなかったな」
セルフィレリカは笑いながら、スィルツォードにこんな提案をした。
「つくづくキミは面白いな。それならどうだろう、仕事がないのなら、ここで働いてみては?」

「えっ……!?」

一瞬、何を言われたのか分からなかった。セルフィレリカはまたコーヒーを口に運びながら言う。
「何も、思いつきで言っているわけじゃないぞ?依頼には色々なものがある。討伐依頼や調達依頼、他にも様々な依頼がある。飽き性のキミにもぴったりの仕事だ」
「……確かに、オレも話を聞いててギルドの仕事ってのに興味が出たけど……いいのか?」
「もちろんだ。歓迎するぞ」
スィルツォードにとって、それは夢のような話だった。ここでなら頑張れるかもしれない、今度こそおじさんとおばさんにちゃんとした恩返しができるに違いない。そう思った。
「よし、やるよ。このギルドで働かせてくれ」
「交渉成立だな。それじゃ、ここでちょっと待っていてくれ」

セルフィレリカはそう言って、階段を下りていった。一体何だろうと考え始めて間もなく、彼女は先ほどカウンターにいた女性――ルイーダと、もうひとり、大柄な中年の男を連れて戻ってきた。
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