Chapter 1-1
「スィルー、起きてるー?」


階下から響く声。
すっかり聞き慣れた声に、ベッドで微睡んでいたスィルツォードは飛び起きた。
「起きてるよー、おばさん!」
ひとまずそう声を張る。美味しそうなトーストの匂いが、階段を上がって彼の鼻にまで辿り着く。
(おばさんってば、今朝はやけに張り切ってんなー。まあ当然か)
今日はおじさんと一緒に久々に街に出るらしいし。
スィルツォードはさっと身軽な服に着替え、タンタンタンと階段を駆け下りる。居間ではちょうど、いつもより少し豪華な朝食が卓に並んだところであった。

「おはよう、スィル。よく眠れたかな?」
「おはよう、おじさん。今朝もバッチリ目が覚めたよ。……あれ? おばさんは?」
「マリーならキッチンだよ。バターを取りに行ってる」
顎髭を撫でつけ、おじさん――ジンは答える。それからものの十秒も経たないうちに、マリーはバターを手に食卓に戻ってきた。
「おはよう、おばさん。なんか今日はいつもより豪勢だな」
「久しぶりに街に出かけるからね。しっかり食べなきゃ途中で疲れちゃうわ」
マリーは悪戯っぽく笑って言った。どうやら相当楽しみにしているらしい。
「そっか。じゃあオレも出かけようかな」
「そうするといいわ、家にいても退屈でしょうからね。また魚でも捕りに行くの?」
「それも悪くないな。でも、今日からオレ、新しい仕事に行くことになってるんだ」

それを聞いてマリーとジンは微妙な表情で笑った。というのも、これまでスィルツォードは何度も仕事――本人は仕事と言い張るが――に行くと言って出かけて行ったことがあるのだが、決まって帰ってくると仕事をクビになったと言って笑うからだ。
「またかい、スィル? 今度も長続きしないと思うけどなあ」
ジンとしては、もはやスィルツォードの仕事クビ事件が日常茶飯事になりつつあるために半ば呆れ口調で笑うばかりである。が、当のスィルツォードは淡々と、能天気に返した。
「そりゃ分かんないよ。今度は続くかもしれないしさ、やってみないと分かんないだろ?」
「そりゃそうだ。ただ、もう今夜の話題が見えたような気がするんだよ」
「そうね、今夜もまたどんな職場だったか教えてもらおうかしらね?」
「おばさんまで……」
世話役の二人は顔を見合わせ微笑み合う。

「ははは。まあスィルの好きにするといいよ。自分の人生なんだ、自分のやりたいようにやるといいさ」
「そうね。とにかくスィル、事故にだけは気をつけなさいね」
「分かった! じゃ、行ってくるよ」
「もう行くのか?」
「ああ、時間がもったいないからな!」
スィルツォードはそう言って、リビングを飛び出しかけた。が、あることを思い出し足を止める。
「っとと。やっぱおばさんの作ってくれた朝飯、きちんと食ってかないとな……」
忙しなく動く彼を見て、マリーとジンはまた微笑むのだった。
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