Prologue-1

「よし、この辺りは鎮圧したぞ!!」









国境に近い、小さな農村。
ここが戦場と化したのは、数ヶ月を遡るある日のことだった。


それは、いよいよとばかりに始められた、内戦であった。
あくまでも些細なきっかけだった。村長の信任だ。
潤わないのは頭が駄目だからと、一部の改革派が立ち上がった。彼らは武器を手に取り、村長をはじめとする他の村人を襲い始めたのである。
一方で村長らも黙っているわけはなく、また同様に武器を構えた。

そんな辺境の農村の戦火は、この王国に残った、唯一の内乱だったのである。







ところが――。

長く続いた争いは、新たな「力」を以てすぐに押さえられた。
それは――残虐非道に他ならぬ、酷く惨い光景を作ったのである。


逃げ惑う村人に、容赦なく襲いかかるは紅蓮の炎。


「うわあああっ!! 助けてくれぇっ!!」

「助けて、助けてぇぇぇ!!!」

「くそっ、我々の邪魔をするな!!」


痛々しいほどの声。それは住処を追われ、刃を突きつけられた命の灯火。


「何を今更! 貴様らが我々の忠告に従わぬが故の結果だろう!」

「お前たちのつまらん内輪揉めで駆り出される身にもなってみろ!」

「許しを乞うてももう手遅れだ! 我々はもう、争いを止めろと散々言ってきたのだからな!!」


一転、兵士たちの怒号が響く。
なす術もなく、村人たちはひとり、またひとりと倒される。

頭を地にこすりつけて平伏す者も、鎌や鉈を手に立ち向かう者も同じようにその体を貫かれた。


土は澱んだ血の色に染まり、わずかながら育っていた野菜も地に落ち無残に踏み潰される。

いまや村は無機質な光沢を放つ無数の鎧に支配されていた。それはこの村にとって今までになく異質な存在。
胴に銀色に光る王家の紋章――ロマリアのものだ――が刻まれていた。


「隊長! ヴァイアニス隊長!!」
「隊長はどこだ、誰か知らないか?」
「俺も見ていない……一体どこに……!」

若い兵士の声が荒れ地に響く。しかし、探し人の姿は見えない。


やや遠くで大きな音がする。つい昨日まで穏やかに佇んでいた民家が焼け落ち、崩れる音だった。


その音を聞いて、びくんと肩を震わせる村人たち。
薄暗い洞穴の中で、皆が息を殺して待つ。いつ見つかるとも知れない恐怖の中で、彼らは身を縮める。

大人から子供、あらゆる者が狭い穴の中にひしめく。


そして、兵士たちが探す人物、ダンケール=ヴァイアニスもその中にいた。
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