Epilogue-5
◇◇◇

???「よっ…と!」

高い石垣を難なく乗り越え、さっと身を隠す。帽子を目深に被り直し、少し息をつこうと腰を下ろしかけた時。

*「いたぞー!アンナちゃんがいた!!」
アンナ「…撒けなかったかい、こりゃあまずいね…!」

見つかってしまった。見れば、追っ手は早くも囲むように詰め寄ってきている。アンナはそのまま動くことができない。

*「へへへ、今回は俺たちの勝ちみたいだなぁ、アンナちゃん?」

一番近づいている男がそう言って、アンナの被る帽子に手を伸ばす。ちょうどその時―――


ゴ〜ン、ゴ〜ン………


アンナ「危なかったねぇ、あと1分早けりゃ捕まってたね」
*「ああっ!くっそぉ〜、あともう少しだったのに!」

大きな教会の鐘が鳴り響き、ゲームは終了した。単純なゲーム…街中を逃げるアンナが、帽子を被る。鐘が鳴るまでにそれを取られなければアンナの勝ち、取られればアンナの負けという至極簡単なルールである。

城の踊り子を退いて早5年。あれからアンナを凌ぐ踊り手はなおも現れず、アンナの復帰を望む声が高かった。アンナとて、踊ることは嫌いではない。そこで、月に一度ゲームを行い、アンナが負ければ期間つきで踊り子に復帰するという取り決めをしたのだ。

アンナ「はい、お疲れ。また来月来るから、その時はまたよろしく頼むよ!」
*「次だ!次こそはアンナちゃんを捕まえてやる!」
*「私も次は頑張るわ!」
アンナ「楽しみにしとくよ。ま…みんなにはまた近々会うんだろうけどね」
*「…?」

不思議そうな表情の町人たちを残して、アンナはラダトームの城下町を後にした。

◇◇◇

故郷の土はやはり暖かい。土地柄当たり前なのだが、それとはまた別の「暖かさ」を感じる。

???2「タア、ここにいたんだ。探したよ?」
タア「嘘ばっか。オレがいつもここに来んの、お前は知ってんだろうが…リーア」

後ろから聞こえた声に振り向くことなく、タアはそう返した。リーアと呼ばれた少女、よりはやや大人びた娘は少しむくれた様子で言った。

リーア「ちょっとー、せめてこっち向いて言ってよね。せっかく会いに来てあげたのに…」
タア「悪かったな。ちょっと特別な気分なんだよ」

そこでやっと、タアは振り向いてリーアを迎えた。

旅立つ前には、微塵ほども想像しただろうか?この自分が、人を好きになるなどということを。

5年前―――ここに戻った時、涙交じりに抱きついてきたリーアに、タアは気付かされた。こんなオレを、待ってたヤツもいたんだと。

リーア「でさでさ、何なのっ?特別なことって」
タア「ああ、これだこれ」

懐から1通の手紙を取り出し、リーアに投げた。封切りが乱雑で、思わずリーアもくすっと笑ってしまう。

タア「…何だよ」
リーア「なーんにも。あぁ〜、教習所のみんなとお食事会なんだ!」
タア「ああ。随分会ってねぇし…暇つぶしにはちょうどいいと思ってな。面倒だが出てやることにした」
リーア「そんなこと言って〜、ほんとは会いたくてたまんないんでしょ?」
タア「ばっ、バカか!んなこと一言も言ってねぇだろうが!」
リーア「あははは、タアってば分かりやすいんだから。それに、ちょっとからかわれたくらいで大人気ないぞー。22にもなってさー」
タア「やかましい、そう言うお前ももうちょい上品にしやがれ。いつまでガキみたいにはしゃいでんだ」
リーア「羨ましいですわ。あなた1人だけ豪華なラダトームの食事をお楽しみになれるだなんて」
タア「…気色悪ぃからやめろ」

「じゃーどーしろって言うのよー」と膨れるリーア。しばらく考えた後、タアはこんな一言を発した。

タア「お前も来るか?」
リーア「えっ…いいの?」
タア「…何がだよ」

驚いた様子のリーア。それから、少しうつむいてこんなことを言う。

リーア「だって…あたしがいたら、恥ずかしいんじゃない?」
タア「………」

言われて気づいた。何を冷やかされるか分かったものではない。が、そんなことは些末なことだった。

タア「構わねぇよ。お前がいないよりマシだ」

沈黙。それからすぐに、リーアは満面の笑顔でタアに抱きついた。

リーア「ほんとに?ありがとー!タアってば大好き!!」
タア「だっ………!!」

ぎゅっと抱きつかれ、暫し固まるタア。それから、頬を掻いてため息をつく。

タア(…ったく、オレもこいつもいい歳なんだけどな)

そうは思いながらも、やはり満更でもないタアであった。
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